第3話

文字数 1,078文字

白い壁に、藍色の床の通路。そこにいくつも並ぶウサギの椅子。スイミングプールを見終わると、サークルメンバーのほとんどがそこに座って写真を撮り出した。

“映え”スポットだそうだ。

なにがおもろいねん、なんて文句を言いつつ、少し離れて、西村としょうもない話をしていると茶髪の長い前髪をかき上げながら、岡部がこちらに来た。

「写真撮らへんの?」

「俺はいいわ」

「僕もいいかな」

「ノリ悪、みんな内心キレてるで」
と岡部が唇を尖らせる。

「どうしてそんなことわかるんだよ」

「テレパシー」

「バカ言うなよ」

テレパシー。

岡部の放った言葉が頭に引っかかった。

そういえば、さっきの声はなんだったのだろうか。

『聞こえる?』

耳に響くような声が、脳内を反芻する。

本当に、気のせいだったのか。

あるいは。

「なあ」

と俺は去ろうとする岡部を呼びとめた。

「なに?」

「テレパシーってあると思う?」

俺の問いに、隣にいた西村が噴き出した。

「急に何言い出ししたの?」

「いやさっき聞こえてん声が」

「ついに本当におかしくなったわけだ」

と冗談めかして西村が両手を挙げた。

やんな、そんなんあるわけないよな、と俺も笑おうしたところで、

「ワンチャンあるんちゃう?」

と岡部が言った。

「え?」
俺と西村は揃えて、声を漏らした。

「ないとは言い切れへんって方が正しいかな」

「なんでそんなこと言えるわけ?」

西村が聞いた。

「私も前期の授業で聞いてん。教授が言ってた。今の世の中科学じゃ証明できひんものはいっぱいあるって。しかも“実在しいひん”って証明はめっちゃむずいらしい。ネッシーも超能力も、存在する証拠がないからって、存在しいひんとは言い切れへんねんて」

「ああ、それは僕も聞いたことある。いない証明っていうのは難しいらしいね」

「そう。やしテレパシーもないとは言い切れへんし、以心伝心とか、そういうのも言うたらテレパシーやろ?テレパシーに関する実験とかも真面目にされてるらしい、で」

「全部教授の受け売りじゃないか」

と西村がからかった。

「まあなあ。でも急にどしたん?」

「いやさっきなんか外で声が聞こえて」

「脳内に?さっきのそれガチで言ってたん?」

「そう」

岡部は小さく鼻で笑って

「いや、教授の受け売りで言うてみたけど、さすがにないやろ」

と言い、ウサギの椅子の方へ戻って行った。

「西村くん」

「うん?」

「あいつどついていい?」

西村はゆっくりと頷いた。
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