第2話
文字数 1,400文字
面白い。
シルバーウィーク真ん中ということもあり。館内はなかなかの混み具合(特にカップルが多い)だったが、思ったよりも、かなり、美術館は楽しかった。前言撤回ものだ。
ある程度館内を見歩いた俺たちサークルの面々は、美術館の目玉であるスイミングプールへ向かって、薄暗い地下通路を歩いていた。
「人多かったね」
横を歩く西村が言った。
特にカップルがな、と思ったが黙っておいた。
「俺いつも思うねんけど美術館とかってもっとあほみたいに値段あげたらいいねん」
「なんで?」
「だってこんな人おるけど、ほとんどミーハーやろ。そいつらのせいでほんまに見たい人がゆっくり見れへんやん。入場料1万円くらいにしたらほんまに好きなやつしかこうへんわ」
「暴論だなあ」
「でもそうやろ?」
「だけど美術に興味を持ってもらうきっかけ作りにはなるでしょ?だから美術に興味ない人こそ安い値段で来るべきなんだよ」
なるほど、たしかに一理ある。
西村はこういうところが良い。視野が広く、俯瞰的だ。
「つまり、今日の僕と君か」
「そう。僕らみたいに美術館を小馬鹿にしてる人ほど来てみたら楽しめるもんなだよ。健太郎も興味持てたんだ?」
「結構おもろかったな」
案の定、あんなに馬鹿にしてたのにね、と西村が鼻で笑った。
プールが近づくと、水と光の影響からか通路が青く染まっていく。少し幻想的だ。
当然、スイミングプールといってもただのスイミングプールではない。地上から見ると普通のプールに水がたまっているように見えるのだが、水中と思われる箇所には、実は水は入っていらず、客は地下からその空間に入ることができる。
そして地下からプールの水面を見上げてもやはり、水はたまっているように見えるのだ。
「ついに、お披露目だよ」
俺と西村、及び他のサークルのメンバーはスイミングプールの内部に入った。
水でできた影が、プールの中をゆらゆらと揺れている。
上を見上げると、水が揺れていて、確かに水面がある。が、俺たちがいるこの空間に水はない。
なんとも不思議な場所である。
揺れる水の影。そして青色の壁。おかげで、一滴も水はないのに、水中にいるかのように錯覚してしまう。
写真で撮ればもっとそうだろう。
それに、きっと水面越しに、上から見ても、やはり俺たちは水中にいるように見えるのだ。
「すごいなこれ」
と思わず声を漏らした。
「こりゃ人気出るわけだね」
西村も頷く。
「これどういう仕組みになってるんだろうね」
という西村の言葉に俺がわざとらしく眉をかしげた。
「なんだよ?」
「アクリルが貼ってあるねんで?」
「アクリル?」
「そう。透明なアクリルが貼ってあってその上に少しだけ水が溜まってるねん。ガイドブックには書いてあってんけどなあ。まさか読んでへん人がいるとは思えへんけど」
俺の嫌味ったらしい物言いに、西村は苦笑している。
「君もしかして読んでへんの?」
「随分思いやりのある解説ありがとう」
「質問に答えてくれる?ガイドブック、読んでへんの?」
「読んでないよ」
「そうかあ。いやそれなら全然いいんやけどなあ」
「相変わらずいい性格してるね」
「ありがとう。それにしても西村くん」
「なに?」
「美術館、楽しいな」
西村はゆっくりと頷いた。
シルバーウィーク真ん中ということもあり。館内はなかなかの混み具合(特にカップルが多い)だったが、思ったよりも、かなり、美術館は楽しかった。前言撤回ものだ。
ある程度館内を見歩いた俺たちサークルの面々は、美術館の目玉であるスイミングプールへ向かって、薄暗い地下通路を歩いていた。
「人多かったね」
横を歩く西村が言った。
特にカップルがな、と思ったが黙っておいた。
「俺いつも思うねんけど美術館とかってもっとあほみたいに値段あげたらいいねん」
「なんで?」
「だってこんな人おるけど、ほとんどミーハーやろ。そいつらのせいでほんまに見たい人がゆっくり見れへんやん。入場料1万円くらいにしたらほんまに好きなやつしかこうへんわ」
「暴論だなあ」
「でもそうやろ?」
「だけど美術に興味を持ってもらうきっかけ作りにはなるでしょ?だから美術に興味ない人こそ安い値段で来るべきなんだよ」
なるほど、たしかに一理ある。
西村はこういうところが良い。視野が広く、俯瞰的だ。
「つまり、今日の僕と君か」
「そう。僕らみたいに美術館を小馬鹿にしてる人ほど来てみたら楽しめるもんなだよ。健太郎も興味持てたんだ?」
「結構おもろかったな」
案の定、あんなに馬鹿にしてたのにね、と西村が鼻で笑った。
プールが近づくと、水と光の影響からか通路が青く染まっていく。少し幻想的だ。
当然、スイミングプールといってもただのスイミングプールではない。地上から見ると普通のプールに水がたまっているように見えるのだが、水中と思われる箇所には、実は水は入っていらず、客は地下からその空間に入ることができる。
そして地下からプールの水面を見上げてもやはり、水はたまっているように見えるのだ。
「ついに、お披露目だよ」
俺と西村、及び他のサークルのメンバーはスイミングプールの内部に入った。
水でできた影が、プールの中をゆらゆらと揺れている。
上を見上げると、水が揺れていて、確かに水面がある。が、俺たちがいるこの空間に水はない。
なんとも不思議な場所である。
揺れる水の影。そして青色の壁。おかげで、一滴も水はないのに、水中にいるかのように錯覚してしまう。
写真で撮ればもっとそうだろう。
それに、きっと水面越しに、上から見ても、やはり俺たちは水中にいるように見えるのだ。
「すごいなこれ」
と思わず声を漏らした。
「こりゃ人気出るわけだね」
西村も頷く。
「これどういう仕組みになってるんだろうね」
という西村の言葉に俺がわざとらしく眉をかしげた。
「なんだよ?」
「アクリルが貼ってあるねんで?」
「アクリル?」
「そう。透明なアクリルが貼ってあってその上に少しだけ水が溜まってるねん。ガイドブックには書いてあってんけどなあ。まさか読んでへん人がいるとは思えへんけど」
俺の嫌味ったらしい物言いに、西村は苦笑している。
「君もしかして読んでへんの?」
「随分思いやりのある解説ありがとう」
「質問に答えてくれる?ガイドブック、読んでへんの?」
「読んでないよ」
「そうかあ。いやそれなら全然いいんやけどなあ」
「相変わらずいい性格してるね」
「ありがとう。それにしても西村くん」
「なに?」
「美術館、楽しいな」
西村はゆっくりと頷いた。