第27話 有象無象の3 遠野さん その2

文字数 1,058文字

☆有象無象の3 遠野さん その2☆
三日後、また遠野さんと同じシフトに入った。九時の品出しをしながら、僕は何度も遠野さんの方を振り返った。ある程度の高さまでコンテナが積みあがると、僕はさっさと外に持ち出した。
「よし、今日は大丈夫だ」
ホッとして台車を転がしながら店内に戻ると、おばあさんが立っている。毎朝にこやかに店に入ってきて、決まっておにぎりを二つとペットボトルのお茶を、遠慮がちに買って帰る。上品で、いつもニコニコしている。いつも通り、お茶を持っていた。
「どうしました?」
僕が声をかけると、困ったような顔で振り向いた。
「それがねえ…」
おばあさんの前では遠野さんが、せっせと陳列ケースにおにぎりを並べている。おばあさんのことに気付きもしないで、だ。
「ちょっと、遠野さんってば!」
「ああ?」
遠野さんは、ぬぼーッと振り向いた。
「ダメじゃない。お客様待ってるじゃん」
「ああ、そうやったかいね」
「はやくどいて!」
彼女は、渋々といった感じで横にどいた。また、謝罪の言葉は出てこない。
「ごめんなさいね、お待たせして。今日はどれにしますか?」
「昆布と高菜にしようかね」
「はい、レジまでもっていきますよ」
僕は、二つのおにぎりをレジまで運んだ。
「はい、350円です。袋はどうします?」
「ああ、いらないわ。ありがとうね」
おばあさんは出て行った。
「お客さん、待たせちゃダメじゃん」
「ええがね、怒っとらんようやったし」
ふん、と鼻を鳴らして作業を続ける。僕はまた少しカチンときた。チクリと頭痛が襲ってきた。

昼時、そろそろお客さんが増えてきた。僕のレジの前には、四人並んでいる。隣を見てみると、遠野さんのレジにも四人並んでいた。僕は懸命にレジを打ったが、隣に並んでいたはずのお客さんがこちらに並び直している。おかしいなと思って目をやると、遠野さんがさっきの先頭のお客さんとおしゃべりをしている…。
「おい、あれ注意しろよ!」
「すみません」
隣で二番目に並んでいたお客さんに、僕が怒られた。
レジが一段落して隣を見ると、まだしゃべっていた。
「もう、遠野さん!」
さすがにしゃべっていたお客さんは、そそくさと出て行った。
「ああ?」
「忙しいのに、何やってるんですか!」
ふん、と鼻を鳴らしてフロアに出て行こうとした遠野さんに、さすがに僕は怒った。ばつが悪そうに、遠野さんは立ち止った。同時にズキンと頭痛が襲ってきた。一瞬しゃがんで、なんとかこらえた。そして立ち上がると、そこには髪を乱してボロボロのところどころに血の付いた服を着た、山姥らしき妖が立っていた…。
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