第2話 冷たい500円玉

文字数 765文字

☆冷たい500円玉☆
その日、僕は夕方の勤務に就いていた。未成年かもしれない、と言うので夜勤はできないけれど、結構タイトなシフトを頂戴している。まあ、お世話になっている以上仕方ない。
寒い日だった。店のガラスの壁の向こうは、薄っすらと雪化粧が施されていた。南国の綾取市では珍しいのではないだろうか。いつもより客もまばらだ。
九時を告げる音楽が店内に流れた。(あと一時間か、夜食に何食べよう。寒いし、やっぱラーメンに卵と餅を入れたのを…)などと考えている時だった。自動ドアが開き、彼女は入ってきた。真っ直ぐにアイスクリーム売り場に向かった彼女は、三つのアイスクリームを手に取ると、すぐにレジにやってきた。スキっとした顔立ちの、少し冷たい印象がある女の子だった。
「いらっしゃいませ」
(かわいい子だな、同い年くらいかな)と思いながら、レジに立った。すると、最初の印象とは違って彼女はにっこりと微笑みながら、アイスクリームをレジ台に置いた。彼女は玉のような汗を額に浮かべていた。よっぽど急いで走ってきたのかなと思いながら、商品をレジに通した。いつもよりアイスクリームは冷たかった。
「480円になります」
声をかけると、彼女は握りしめた手を開き、500円玉をレジ台に上に置いた。
「20円のお返しです」
すると、彼女はまたにっこりと微笑んだ。
「ありがとう」
「ありがとうございました」
やり取りの後、僕は500円玉をつまみ上げた。
「痛っ」
とんでもない痛みが指先に走った。それが冷たさであることに気付くのに、少し間があった。
(まあ、この寒さだからね、金属は冷えるよ)(あの子は、よくこんな冷たい500円玉が平気だったよな)などと考えていたが、ふと気づいた。
(あの子は、この500円玉を握りしめていたぞ!)
どう言うことだろうか。
これがレイさんとの出会いだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み