文字数 655文字

数年後、総合内科医の診察室に刑事が訪れた。

「先生、お忙しいところ恐縮です」
「いえ、それでなにか?」
「さいとう、という患者をご存じですよね?」
「ん~それだけではなんとも、ありふれたお名前ですし」
「頭痛のさいとうさん、といえばおわかりになりますか?」
「頭痛もありふれた症状ですよ」
「先生、1か月もさいとうさんの頭痛を調べていらしたのに、わからないってことはないでしょう?」

「ああ、あの患者さんですか。彼には申し訳なかった」
「ほう、申し訳なかったとはそれはどういったことで?」
「ずっと頭痛を訴えてらしたのですが、どうしても原因がわからなくて、結局手遅れに」
「手遅れといいますと?」
「そうとう重度な後遺症が残って、植物状態だとか」

「実は告発がありましてね。さいとうさんが先生を告発しました」
「……」
「植物状態を脱したんです。
 彼は詳しい記録を残していまして、目が覚めてからその記録を我々に見せてくれたんですよ」
「そうなんですか」
「経緯はぜんぶわかっています。とはいえ、さいとうさんの主観であることには違いない。
 だからこうして先生にも事情聴取にお伺いしたわけです。
 それに点滴液が見つかってない」

総合内科医は笑みを浮かべて刑事に問いかけた。

「ではお帰り下さい。証拠がないんでしょ?」
「先生、さいとうさんは生きている。自首すれば極刑にはならないぞ」
「お帰りください。証拠がないんじゃダメでしょう?
 警察は法執行機関、法を守りなさい」

刑事は嘆息すると、
拳銃を取り出して総合内科医に銃口を向け撃鉄を上げると、引き金を引いた。
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