第2話
文字数 1,646文字
──そんな夢を見た。
昨日閉め忘れたカーテンからは容赦なく太陽の光が差し込んできていたから、きっとそのせいだ。朝とはいえ夏の日光はキツイのだ。
そのうえ汗に濡れたシャツが体に張り付いて、気持ち悪い。
「お風呂入りたい……」
だした声はカラカラに掠れていた。喉も乾いてて、気分サイアクだ。
「おかあさーん、スポドリ冷えてる? って、あれ?」
キッチンに行くと誰もいない。というか、家の中にひとけがない。急いで時計を見る。
あ、ヤバい。遅刻だ。
そういえばお母さんに起こされた気もする。けど、そのときはまだ眠たかったし。二度寝したって大丈夫な時間だったし。朝は寝られる限りは寝ていたいのだ。
「うええ……」
それでギリギリラインを攻めようとして、負けてしまった。
急いで用意すればどうにかなる時間ではあったけれど、それだと朝ごはんは食べられないし、髪の毛だってボサボサになる。仮にも私は女子高生だ。そんなんじゃダメでしょ。
とはいえちょっと面倒くさいのもホントのことで。
夢で見た砂漠の女の子みたいに、誰にも会わず、一人でぼんやり過ごすような生活ならアイロンで髪をセットしたりしなくていいのにな。
学校行って、わけわかんない勉強して、バイトで変な客に絡まれたりしない生活とか最高だと思う。好きな時に寝て、好きな時に食べて、ベッドの上で寝転んでマンガ読んだり、毎日休日ってことでしょ。正直言って羨ましい。あ、でも友達とかはいなさそうだった。遊べないのは嫌やだなあ。
なんてことを考えながらシャワーを浴びて、朝ごはんもしっかり食べて。私は買ったばかりのローファーを履く。これ、先が四角デザインで可愛いんだ。
それにしても暑いなあ。
なんでこんな暑い時に学校になんて行かなきゃなんないんだろ。勉強つまんないし、授業中ぼんやり過ごす時間の方がもったいない。友達と話すのは楽しいから、学校が嫌いなわけじゃないけど、夏休みに早くなればいいのにって思う。そうしたらずっと遊んでいられるし。
でもまずは今日の学校だ。
遅刻なのは確実だけど、遅刻するのにだって作法はある。
授業中に教室に入るのなんてセンスない。目立たないように、一限と二限の間の休み時間に教室に滑り込むのがベストだ。時間を狙って登校するのだ。逆算して、早く歩きすぎたり、遅くなりすぎたりしないようにしなくちゃいけない。
これ、けっこう難しいんだよ。
それにしてもホントに暑いや。
ちょっとでも影のあるところに行きたくて、私は道路沿いの塀に寄る。幅の狭い影に身体を差し込んだとき、塀の上にぴょこんと猫が顔を出した。
「かっわいい〜〜〜!!」
茶色の体に黒っぽいしましま模様。
美人な猫ちゃんは私にはまるで無頓着にそこにいる。なのに明らかにこちらの視線が向いているのを意識して、背中を伸ばしてツンと鼻を上に向けているところが、めちゃカワだ。
「プライドたっかたかお嬢様って言われるでしょ」
でもそこがいい。
こういうツンツンした子って、デレデレにさせたくなるよね!
何かないかとカバンの中を漁ってみると、いくつかのお菓子が出てきた。
「うわあ、溶けてるし。最悪」
あるのはアメとグミとちっちゃいチョコか。さすがに猫ちゃんが好きそうなものはない。でもまあ数打てば当たるかもしれないわけだし。
「ほら、おいで」
期待いっぱいニコニコ話しかけてみる。だけどやっぱり初めからうまくはいかなくて、差し出した手は猫パンチを返された。しかも爪付きで。
「いったーい」
平行についた2本線の傷跡はまさしく猫にやられましたって感じだ。じっと見ていると、うっすらと血が滲んでくる。
そういえば猫の引っ掻き傷って腫れるんだっけ。
「だったら予定変更かな」
病院に行ってから学校行こう。そうしたら胸を張って遅刻の理由を言えるわけだし。
うん、完璧。
見上げるともう猫はいなくなっていた。餌付け作戦は次の機会におあずけだ。
今度はおいしいおやつを用意してリベンジするから、楽しみに待っててよね!
昨日閉め忘れたカーテンからは容赦なく太陽の光が差し込んできていたから、きっとそのせいだ。朝とはいえ夏の日光はキツイのだ。
そのうえ汗に濡れたシャツが体に張り付いて、気持ち悪い。
「お風呂入りたい……」
だした声はカラカラに掠れていた。喉も乾いてて、気分サイアクだ。
「おかあさーん、スポドリ冷えてる? って、あれ?」
キッチンに行くと誰もいない。というか、家の中にひとけがない。急いで時計を見る。
あ、ヤバい。遅刻だ。
そういえばお母さんに起こされた気もする。けど、そのときはまだ眠たかったし。二度寝したって大丈夫な時間だったし。朝は寝られる限りは寝ていたいのだ。
「うええ……」
それでギリギリラインを攻めようとして、負けてしまった。
急いで用意すればどうにかなる時間ではあったけれど、それだと朝ごはんは食べられないし、髪の毛だってボサボサになる。仮にも私は女子高生だ。そんなんじゃダメでしょ。
とはいえちょっと面倒くさいのもホントのことで。
夢で見た砂漠の女の子みたいに、誰にも会わず、一人でぼんやり過ごすような生活ならアイロンで髪をセットしたりしなくていいのにな。
学校行って、わけわかんない勉強して、バイトで変な客に絡まれたりしない生活とか最高だと思う。好きな時に寝て、好きな時に食べて、ベッドの上で寝転んでマンガ読んだり、毎日休日ってことでしょ。正直言って羨ましい。あ、でも友達とかはいなさそうだった。遊べないのは嫌やだなあ。
なんてことを考えながらシャワーを浴びて、朝ごはんもしっかり食べて。私は買ったばかりのローファーを履く。これ、先が四角デザインで可愛いんだ。
それにしても暑いなあ。
なんでこんな暑い時に学校になんて行かなきゃなんないんだろ。勉強つまんないし、授業中ぼんやり過ごす時間の方がもったいない。友達と話すのは楽しいから、学校が嫌いなわけじゃないけど、夏休みに早くなればいいのにって思う。そうしたらずっと遊んでいられるし。
でもまずは今日の学校だ。
遅刻なのは確実だけど、遅刻するのにだって作法はある。
授業中に教室に入るのなんてセンスない。目立たないように、一限と二限の間の休み時間に教室に滑り込むのがベストだ。時間を狙って登校するのだ。逆算して、早く歩きすぎたり、遅くなりすぎたりしないようにしなくちゃいけない。
これ、けっこう難しいんだよ。
それにしてもホントに暑いや。
ちょっとでも影のあるところに行きたくて、私は道路沿いの塀に寄る。幅の狭い影に身体を差し込んだとき、塀の上にぴょこんと猫が顔を出した。
「かっわいい〜〜〜!!」
茶色の体に黒っぽいしましま模様。
美人な猫ちゃんは私にはまるで無頓着にそこにいる。なのに明らかにこちらの視線が向いているのを意識して、背中を伸ばしてツンと鼻を上に向けているところが、めちゃカワだ。
「プライドたっかたかお嬢様って言われるでしょ」
でもそこがいい。
こういうツンツンした子って、デレデレにさせたくなるよね!
何かないかとカバンの中を漁ってみると、いくつかのお菓子が出てきた。
「うわあ、溶けてるし。最悪」
あるのはアメとグミとちっちゃいチョコか。さすがに猫ちゃんが好きそうなものはない。でもまあ数打てば当たるかもしれないわけだし。
「ほら、おいで」
期待いっぱいニコニコ話しかけてみる。だけどやっぱり初めからうまくはいかなくて、差し出した手は猫パンチを返された。しかも爪付きで。
「いったーい」
平行についた2本線の傷跡はまさしく猫にやられましたって感じだ。じっと見ていると、うっすらと血が滲んでくる。
そういえば猫の引っ掻き傷って腫れるんだっけ。
「だったら予定変更かな」
病院に行ってから学校行こう。そうしたら胸を張って遅刻の理由を言えるわけだし。
うん、完璧。
見上げるともう猫はいなくなっていた。餌付け作戦は次の機会におあずけだ。
今度はおいしいおやつを用意してリベンジするから、楽しみに待っててよね!