第4話
文字数 1,783文字
くだらないわ。分不相応ね。
我が物顔なだけの自立心なんて滑稽なものよ。
なかば人間に庇護を受け、食事すら自分で用意しようともしない。なんて中途半端で自己満足な自立心なのかしら。それなのにプライドだけは高いだなんて。理想を履き違えた、空っぽな猫。
夢に見るにしたって馬鹿げているわ。
どうしてアタシはあんな夢を見たのかしら。
だいたい人間に飼われることはそんなにもいけないことではないと思うの。
アタシたちラクダはペットではなく家畜だけれど、たしかにそういう違いはあるけれど、やるべき役割を果たして食事を提供されているし、仲間たちの生活だって守られている。
群れの中では自由恋愛だって許されているわ。ひとこぶとふたこぶの違いはあっても、ラクダはラクダ。どう[[rb:番 > つが]]おうとも勝手にすればってかんじで禁じられてはいないし、ハーフは力持ちで有能よ。
あんな風に自分自身にすら嘘をついて取り繕って過ごす日常じゃなく、アタシは現実を生きているの。それが大切だと思うのよ。
今日も砂漠の日差しは厳しくて、アタシの長いまつ毛のあいだをすり抜けて来るくらいに厳しい。夏へ変わった時分は体が変化についていけなくって辛いのよ。キャラバンの時期とはずれているとはいえ、年々それを感じるようになってきた。
アタシも歳だってことかしら。
いやあね、歳をとるのって。
でも、いいこともあるの。数日前には妹の娘が赤ちゃんを産んだのよ。
小さな命って可愛いわ。生まれてすぐにあんなに小さな足で立ち上がってママのところへいくんですもの。胸がキュウウンとしちゃうわ。
これが自分の子供ならもっと可愛いんでしょうね。だけどアタシはオスだし、とっても魅力的だと自負もしているのだけれど、メスと交尾するのはちがうのよね。
残念だわ。でもよかったかもしれない。自分の子供なんてできたらキュウウンがキュウウンすぎて、きっとアタシったら赤ちゃんの前で倒れちゃうわ。そんなんじゃ赤ちゃんだってビックリしちゃうわよね。
ビックリといえばこの前の交易路で面白いものを見たのよ。
アタシももういい歳だけど、あんなのは初めて見たわ。一緒にいた人間が震えながら指をさしていてね。その方向に、見たこともない箱があったのよ。
白い四角い壁に囲まれた箱よ。それからその箱に寄り添うように一本の木が生えているの。中央に窓があったから、たぶん人間の家なんだとは思うんだけど。
ここは砂漠でしょう。明らかにおかしいのよ。絵に描いたみたいに現実味がなくて、それが一定のスピードで動いていくの。隣の木も一緒によ。
すごく不自然だったわ。幻覚って言われたほうがまだ現実味があると思う。
その箱の窓があって、よく眼を凝らすとガラスの向こうには女の子が頬杖を杖てこちらを見ていたの。
隣で人間がぎゃあぎゃあと喚いていて、エレガントでミステリアスな光景に水を刺された気分だったわ。でもそれでわかったの。
あれは流砂の家よ。
砂の民の間で語りつだれている話。箱の中には魔物が住み、見たことに気づかれれば捕まえにくるの。捕まえられたら、あの箱の牢獄にずっと閉じ込められることになるのよ。
怖いわよね。アタシの隣の人間なんてブルブル震えちゃってみっともないったらなかったわ。
でも、アタシは思うのよ。聞いただけの話にどれほどの信憑性があるっていうのかしらって。
噂ほど信憑性のないものはないわ。しっかり自分の瞳で見て、そのうえで見たものを信じればいいって思うのよ。
あの女の子、こちらに向かって手を降っていたわ。無邪気な目をキラキラさせて。とっても可愛いくって、キュウウンってしちゃったもの。
可愛い子って大好きよ。できることならお近づきになってもみたかったわ。
だけどダメね。あの箱、全然スピードを落とさないのよ。地面ごと動くなんてどうなっているのかしら。あれじゃあ走ってもアタシには近づけない。
あの女の子。一体どんな気持ちで過ごしているのかしら。一人であんなところに閉じ込められているなら、淋しいと思うけれど、あの子は太陽にも負けないくらい眩しい笑顔をしていたのよ。
ひとつ後悔があるとすれば、せっかくのあの子の挨拶に、手を振り返すこともできず見送ってしまったことかしら。
でも仕方がないわ。
だってアタシはラクダなんだもの。
我が物顔なだけの自立心なんて滑稽なものよ。
なかば人間に庇護を受け、食事すら自分で用意しようともしない。なんて中途半端で自己満足な自立心なのかしら。それなのにプライドだけは高いだなんて。理想を履き違えた、空っぽな猫。
夢に見るにしたって馬鹿げているわ。
どうしてアタシはあんな夢を見たのかしら。
だいたい人間に飼われることはそんなにもいけないことではないと思うの。
アタシたちラクダはペットではなく家畜だけれど、たしかにそういう違いはあるけれど、やるべき役割を果たして食事を提供されているし、仲間たちの生活だって守られている。
群れの中では自由恋愛だって許されているわ。ひとこぶとふたこぶの違いはあっても、ラクダはラクダ。どう[[rb:番 > つが]]おうとも勝手にすればってかんじで禁じられてはいないし、ハーフは力持ちで有能よ。
あんな風に自分自身にすら嘘をついて取り繕って過ごす日常じゃなく、アタシは現実を生きているの。それが大切だと思うのよ。
今日も砂漠の日差しは厳しくて、アタシの長いまつ毛のあいだをすり抜けて来るくらいに厳しい。夏へ変わった時分は体が変化についていけなくって辛いのよ。キャラバンの時期とはずれているとはいえ、年々それを感じるようになってきた。
アタシも歳だってことかしら。
いやあね、歳をとるのって。
でも、いいこともあるの。数日前には妹の娘が赤ちゃんを産んだのよ。
小さな命って可愛いわ。生まれてすぐにあんなに小さな足で立ち上がってママのところへいくんですもの。胸がキュウウンとしちゃうわ。
これが自分の子供ならもっと可愛いんでしょうね。だけどアタシはオスだし、とっても魅力的だと自負もしているのだけれど、メスと交尾するのはちがうのよね。
残念だわ。でもよかったかもしれない。自分の子供なんてできたらキュウウンがキュウウンすぎて、きっとアタシったら赤ちゃんの前で倒れちゃうわ。そんなんじゃ赤ちゃんだってビックリしちゃうわよね。
ビックリといえばこの前の交易路で面白いものを見たのよ。
アタシももういい歳だけど、あんなのは初めて見たわ。一緒にいた人間が震えながら指をさしていてね。その方向に、見たこともない箱があったのよ。
白い四角い壁に囲まれた箱よ。それからその箱に寄り添うように一本の木が生えているの。中央に窓があったから、たぶん人間の家なんだとは思うんだけど。
ここは砂漠でしょう。明らかにおかしいのよ。絵に描いたみたいに現実味がなくて、それが一定のスピードで動いていくの。隣の木も一緒によ。
すごく不自然だったわ。幻覚って言われたほうがまだ現実味があると思う。
その箱の窓があって、よく眼を凝らすとガラスの向こうには女の子が頬杖を杖てこちらを見ていたの。
隣で人間がぎゃあぎゃあと喚いていて、エレガントでミステリアスな光景に水を刺された気分だったわ。でもそれでわかったの。
あれは流砂の家よ。
砂の民の間で語りつだれている話。箱の中には魔物が住み、見たことに気づかれれば捕まえにくるの。捕まえられたら、あの箱の牢獄にずっと閉じ込められることになるのよ。
怖いわよね。アタシの隣の人間なんてブルブル震えちゃってみっともないったらなかったわ。
でも、アタシは思うのよ。聞いただけの話にどれほどの信憑性があるっていうのかしらって。
噂ほど信憑性のないものはないわ。しっかり自分の瞳で見て、そのうえで見たものを信じればいいって思うのよ。
あの女の子、こちらに向かって手を降っていたわ。無邪気な目をキラキラさせて。とっても可愛いくって、キュウウンってしちゃったもの。
可愛い子って大好きよ。できることならお近づきになってもみたかったわ。
だけどダメね。あの箱、全然スピードを落とさないのよ。地面ごと動くなんてどうなっているのかしら。あれじゃあ走ってもアタシには近づけない。
あの女の子。一体どんな気持ちで過ごしているのかしら。一人であんなところに閉じ込められているなら、淋しいと思うけれど、あの子は太陽にも負けないくらい眩しい笑顔をしていたのよ。
ひとつ後悔があるとすれば、せっかくのあの子の挨拶に、手を振り返すこともできず見送ってしまったことかしら。
でも仕方がないわ。
だってアタシはラクダなんだもの。