第5話 マスカキザル

文字数 867文字

僕ははっきり依存症だ。
それは、ある種の現実逃避だと思う。
何かに夢中になっていないと、自分なんてどこにも居ない。
きのこ採りにも夢中になった。
夢中になると、見境いない。
仕事の前、仕事の後。
山を歩き回る。
きのこ図鑑を一冊買って、そこに載ってるものから覚えて行こう。
時期的に、クリタケくらいしかわからない。
ひたすら斜面を上り下り、切り株の根元を探す。
ニガクリタケというきのこと似てると言われるので、少しでも違和感を感じたら噛んでみる。
ニガクリタケは苦いらしい。
全然似て無くて、見た目で間違い様がない気もするけど、クリタケみたいなニガクリタケもあるという。
最初2年くらいは、噛んだ。
良くニガクリタケを噛んで苦みを覚えると良いというけど、苦い毒きのこをわざわざ噛みたくない。
クリタケ噛んでてもその後やたらつばを吐いて口が乾くんだから。
今思えばクリタケみたいなニガクリタケとはニガクリタケモドキなんじゃないかな?と思う。
で、ニガクリタケモドキは確か無毒だったと思う。
このニガクリタケとニガクリタケモドキも間違い様がない。
そして更にクリタケモドキというのもある。
クリタケにも真っ白なもの、かなり黄色いものと系統がある。
あまり頭でっかちに心配すると、手が出せないきのこだけど、サイズ的にニガクリタケにはニガクリタケモドキと完全に見分けられる限界値がある。
そして、ニガクリタケモドキはかなり晩秋に出てくる。
クリタケとそれらは、まるきり色が違う。
結論として、噛んで確認するくらい曖昧に感じるなら採らなければ良い。
ていうか、ニガクリタケモドキを確信持って以外にニガクリタケ属を持ち帰るくらいならきのこ採りなんてしちゃダメだ。
この2年間のクリタケとの格闘は、その後の僕の同定基準の基盤として、今も活きている。
何より経験を積み重ね、それをいちばんに信じつつも、常に疑う。
すべての可能性を否定しない一方で、「絶対」の領域を拡げる。
その最初の年は、他にヌメリイグチ、ショウゲンジ、ヌメリササタケ、アブラシメジモドキ、チャナメツムタケ、シモフリシメジ等を覚えて行った。
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