第3話 lost and found

文字数 634文字

山に入ってすぐに、叔父さんと先輩は「ここにシバカブリが、ここにアカタケが、一面出るんだけどなあ。」
ってな具合が下山するまで続いた。
「なんもねー」
「イクチもでてねー」
僕にはなにか、悪魔を召喚する呪文の様に聞こえた。
実際その後2、3日うなされた気もする。
しかし、それはいっぱしのきのこ採りみたいになった僕の常套句になっているのだけれど。
尾根まで上がると「この辺に松茸出るんだけど、ないなあ」
またもや「ない」である。
体力には自信があったがワンカップが効いて来て、頭が痛い。
10月初旬のお昼前、言われた通りに肌が露出しない様にヤッケを着てきたせいで、暑い。
来た意味を見いだせず、早く帰りたいな、などと思いながらふと足元を見ると黒い何かを見た。
すっかり得意げに「松茸、見つけちゃいました!」と僕が言うと、叔父さんも先輩もこちらを見もせず「採りなよ…」
めちゃめちゃ悔しそうだ。
この気持ちも、今は良くわかる。
いざ、としゃがみ込むと、なんか違う。
「あれ?」と僕が悩んでると、「オショウニンじゃないか!」とふたり。
その時は松茸じゃなかったから嬉しいんだと思っていたが、今ではわかる。
松茸より嬉しいきのこ。
クロカワとの出会い。
そのきのこは扁平で、掘り出す手間も要らなかった。
すると先輩が斜面に降り探し出したので、僕も付いて行く。
「あっ!」
先輩の声に振り返ると、先輩の手にはきのこではなく携帯電話。
「これ、双葉くんのじゃない?」
危ない危ない。
こんなとこで落としたら、見つからないとこだった。
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