十五 博打の理由
文字数 857文字
二日後、葉月(八月)六日、昼四ツ(午前十時)。
藤五郎は馬喰町の香具師の元締、藤代の家に着いた。
「ささっ上がって下さい。昨日、使いから知らせを聞いて待っていました」
藤代は丁重に挨拶して藤五郎を奥の座敷に迎えた。
「なんだ、言葉つきまで変えていつも藤代らしくないぞ。俺は藤代を再従弟叔父上 とでも呼べばいいのか」
「いや、そうではない。藤五郎は我らの総元締めだ。その様に思っているだけだ」
「総元締めと呼ぶのは、手下たちを前にした折だけにしてくれ。
そうでない折は、今までの様に、気軽に藤五郎と呼んでくれ」
馬喰町界隈を仕切る元締め藤代は、藤五郎の父藤吉の再従弟で、歳は藤五郎より二つ上だ。藤五郎の再従弟叔父である。
「わかった。ところで、頼みがあると事前に使いを寄こすとは、いったい何の頼みだ」
「商売の話だ。まだ考え中だから人払いしてくれ」
「二人だけにしてくれ」
藤代は藤五郎の意を介して人払いした。
座敷から藤代の女房と手下が出てゆくと藤五郎は藤代を近くに呼んで耳打ちした。この事は何人たりとも聞かれてはならない・・・。
「博打を教えてくれぬか」
「なんとっ・・・。商い一筋の藤五郎がどうしたのだ。何かあったのか」
藤代は驚いて藤五郎の顔を見つめ、問いただした。。
藤五郎はさらに耳打ちした。
「亀甲屋は、香具師たちを単なる商いの客や商売上の用心棒と見ている節がある。亀甲屋は商いの手を拡げているが、儲けはさほど増えていない。これでは先行きが危ぶまれる・・・」
「それと博打が、何の関わりがあるのだ」
「実はな・・・」
藤五郎はさらに小声で、これまで考えていた事を耳打ちした。
「何とっ・・・。博打はともかく・・・・」
藤代は目を見開いて驚いている。
「無理と思うか」
耳打ちする藤五郎に、藤代が耳打ちで返す。
「無理とは思わぬが、亀右衞門さんと庄右衛門は納得すまい」
「今すぐには手を出さぬ。下屋敷に潜入して下見し、今後に備えたい」
「ならばとりあえずは博打をしに行くのだな・・・。
良かろう。博打をしようっ」
藤代は藤五郎から離れた。
藤五郎は馬喰町の香具師の元締、藤代の家に着いた。
「ささっ上がって下さい。昨日、使いから知らせを聞いて待っていました」
藤代は丁重に挨拶して藤五郎を奥の座敷に迎えた。
「なんだ、言葉つきまで変えていつも藤代らしくないぞ。俺は藤代を
「いや、そうではない。藤五郎は我らの総元締めだ。その様に思っているだけだ」
「総元締めと呼ぶのは、手下たちを前にした折だけにしてくれ。
そうでない折は、今までの様に、気軽に藤五郎と呼んでくれ」
馬喰町界隈を仕切る元締め藤代は、藤五郎の父藤吉の再従弟で、歳は藤五郎より二つ上だ。藤五郎の再従弟叔父である。
「わかった。ところで、頼みがあると事前に使いを寄こすとは、いったい何の頼みだ」
「商売の話だ。まだ考え中だから人払いしてくれ」
「二人だけにしてくれ」
藤代は藤五郎の意を介して人払いした。
座敷から藤代の女房と手下が出てゆくと藤五郎は藤代を近くに呼んで耳打ちした。この事は何人たりとも聞かれてはならない・・・。
「博打を教えてくれぬか」
「なんとっ・・・。商い一筋の藤五郎がどうしたのだ。何かあったのか」
藤代は驚いて藤五郎の顔を見つめ、問いただした。。
藤五郎はさらに耳打ちした。
「亀甲屋は、香具師たちを単なる商いの客や商売上の用心棒と見ている節がある。亀甲屋は商いの手を拡げているが、儲けはさほど増えていない。これでは先行きが危ぶまれる・・・」
「それと博打が、何の関わりがあるのだ」
「実はな・・・」
藤五郎はさらに小声で、これまで考えていた事を耳打ちした。
「何とっ・・・。博打はともかく・・・・」
藤代は目を見開いて驚いている。
「無理と思うか」
耳打ちする藤五郎に、藤代が耳打ちで返す。
「無理とは思わぬが、亀右衞門さんと庄右衛門は納得すまい」
「今すぐには手を出さぬ。下屋敷に潜入して下見し、今後に備えたい」
「ならばとりあえずは博打をしに行くのだな・・・。
良かろう。博打をしようっ」
藤代は藤五郎から離れた。