十 辻売り

文字数 1,094文字

 辻売りたちは商いをしたい場所と商う品を香具師の元締に伝え、商う場所を決めてもらう。もちろん所場代という手間賃を払ってだ。

 辻売りたちは独自の仕入れ先を持っていたが、その仕入れ先を亀甲屋が一手に引き受け、辻売り一人一人が仕入れるより、仕入れ値を値下げさせた。
 辻売り一人一人の仕入れ値より亀甲屋の仕入れ値が安くても、亀甲屋がまとめて大量に仕入れるので、仕入れ先の店や問屋は悪い気がしなかった。

 一方、辻売りたちは自分たちが仕入れて法外な仕入れ値を強いられることが無くなり、その日その日でまちまちだった仕入れ値は今までより安く、しかも安定した仕入れ値になった。そのため商う品物の利幅が今までより増えた。
 しかも、亀甲屋は、辻売りたちが独立して店開きするための積立をしてくれると言うのも評判になった。積立は強制でなかったが、辻売りたちは亀甲屋に積立を依頼し、商い道具の賃貸を希望した。

 なにせ、亀甲屋は、香具師の総元締めと呼ばれている藤吉の、女房の実家だ。しかも此度の策、
『辻売りや香具師のために商い道具と仕入を亀甲屋が一手に肩代りして、将来自分の店を持ちたいという者のために積立をする』
 を考案したのが、藤吉や祖父の亀甲屋亀右衞門と伯父の亀甲屋庄右衛門の意見を取り入れて考案した藤五郎と聞き、辻売りたちと香具師たちは、藤五郎の商いの才と藤吉の後継者である事を認め、
『いずれは亀甲屋の優れた後継ぎになるのだろう』
 と思った。

 祖父の亀甲屋亀右衞門と伯父の亀甲屋庄右衛門は、藤五郎を亀甲屋の後継者にしたいと思った。

 一方、藤五郎は父の藤吉と亀甲屋を見ていて、
『この世は、全て金次第、ということか・・・・』
 と思いはじめていた。

 銭金を得るなら、世の中の全ての者たちが必ず欲しがる物を独占して売ればいい。高い値をつけると買わないから、できるだけ安くするのだ。商売敵でさえ、
『こんな値では儲けが出ない』
 と思う値で売るのだ。そのような品物は何だろう・・・。

 待てよ、と藤五郎は思った。
 品物の売り買いは全て問屋を通す。亀甲屋は廻船問屋で、二番手の問屋、二次問屋だ。物の値は、米問屋など全てが生産地の一番手の専門の問屋、一次問屋で決められてしまう。一次問屋を亀甲屋がするのでなければ、物の値を決めるのには限度がある。

 亀甲屋の一存で売り買いできる品物は、何が有るのか・・・。
 今有るのは、辻売りや香具師や一人で請け負い仕事している者に売るか、あるいは、貸し与えている、大八車や担い屋台とそれらで使う道具など、小物ばかりだ・・・。
 もっと値が張る大物はないものか・・・。藤五郎は儲けることを考えていた。

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