出口C

文字数 489文字

別れの日は、突然やってきた。

ぼくはお願いする。
「帰りのトンネルの中に、トンネルを通したいんだ! (でん)(せい)(かん)にする! ……名前だけでも覚えていてほしくて。だめ?」
おじさんは笑顔になった。
「やってみよう!」

向こうへ着いたらおじさんはぼくを忘れてしまうから、なんだか言葉にならなくて、ぎゅっとハグをした。

現れた帰り道は、見たことのない色をしてた。
おじさんに手伝ってもらって、伝声管トンネルを設置する。

時間だ。

おじさんはトンネルへと踏み出し、出口に向かって歩き出す。
遠ざかっていくおじさんを、ぼくは伝声管を握りしめて見守った。

トンネルを抜けたおじさんが振り返る。
きょとんとしているおじさんに向かって、ぼくは叫んだ。

「細田レイ! ぼくの名前はレイ! レイ!」

「レイ? クナユニ」

知らない大人が来て、伝声管が閉じた。

ぼくはめいいっぱい手を振る。

トンネルが閉じられる瞬間、おじさんはお辞儀(じぎ)をしようとした。

この世界に来たとき、おじさんはお辞儀を知らなかった。
ぼくが学校の号令の話をしたことを、覚えていたのかもしれないし、たまたまかもしれない。

涙が込み上げできた。

さよなら。

秘密に満ちた、ぼくの友達。
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