第2話 コンビニ全力戦

文字数 841文字

「ありがとございましたぁ」
 口足らずな挨拶を背中に受けながら、コンビニを出る。梱包用のガムテープやら、使い捨て用の割りばし、お皿などがつまったコンビニ袋が両手に握られているだけだった。成果なし。500円分ほど財布が軽くなっただけだ。
 こういう物を購入することで、第一リアクションとして彼女から声をかけてくれる展開を期待したが、駄目だった。
 やはりそれぐらいは、最初の一歩は自分から踏み込まないといけないらしい。
 いつもは弁当、お菓子、お酒、MMORPG用のゲームカードやトレーディングカードゲームなどしか買わない。というかそれ以外の種別は買っていない。ほとんど固定化された買い物内容だった。それらを一切買わずにこれらの購入だったから少しは望みがあると思ったが、駄目だった。
 勇気ってやつを振り絞る必要があるようだ。
 歩く速度が自然と早くなる。
 彼女のシフトは、だいたいあと数時間。一度帰宅後、再びコンビニへ突入しよう。いかにも買わないといけないものを買い忘れた体を出すため、買い物したものを部屋に置いてから、速攻ダッシュしてコンビニへ帰還だ。
 早歩きは気づいたときには、ダッシュになっていた。軽く全力だ。運動できない人が全力で走る。息切れ。動悸。荷物を玄関先へ放り投げ、再度コンビニへダッシュ。鍵もかけない。
 疲弊しながら走りながら考える。
 何してんだろうか。
 わからない。汗だくなりながら、ぜえぜえ血の味を味わいながら、名前もあまり覚えていない誰かにお別れをいうために頑張っている。あしたこのセカイからいなくなるからだろうか。 
 だから何かわけわからないアオハルごっこをして楽しみたいのだろうか。
 こんなことなら手紙でも書いて、そっとお金と一緒に渡せばよかったかもしれない。そっちの方が情緒があるかもしれない。少なくとも汗だくぜえぜえよりは見栄えする。
 でもそれでもただ。
 わかりはしない。
 ただ。全力で走っている最中は、そんなにつらくはなかった。
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