第1話 あした異世界転生することになったんだけど

文字数 879文字

 あした異世界転生することにした。本気だ。冗談ではない。もうこんなセカイこりごりなのだ。いいことなんて何もない。お給料は手取りで18万ぐらいにしかならない。結婚できやしない。遺伝子が残せない。相手もいない。勇気も足りない。選択肢なんてそうはなかった。
 異世界転生できるなら、それで全部リセットしてゼロから再開だ。異世界で有用そうな特殊スキルは持っていないような気がするけど、きっと異世界の美少女にモテモテなスキルを保有しているはずなので、大丈夫だ。きっとなるようになる。

 せっかくなので闇金などで金を借りまくって人生の経歴をめちゃめちゃにしてから転生してやることも考えたが、そこはこれまでの人生通り、そんなことはできなかった。やりたくはあったが実行はできなかった。それに闇金漫画の主人公みたいなやつが実在したら本当に異世界まで取り立てに来られそうだからやっぱりやめておいた。異世界転生してまで借金の取り立てにびくびくする生活なんて送りたくない。消費税の存在しない世界へ行くのだ! 

 ただ思い残していることがある。
 僕は誰にも異世界転生することを伝えられていない。
 いやその単語を直接的に、このセカイから、この社会からいなくなることを伝える大切な人が、一人もいない。家族はいない。親兄弟は対象外。
 いざ異世界転生するにあたり、誰かにお別れをいいたくなった。感傷的になったということかもしれないし、誰かに後ろ髪を引っ張ってほしかったのかもしれない。
 とにかく誰か別れを言わせてくれる人を探すことにした。

 よく行くコンビニの女子高生バイトちゃんにお別れを言うことにした。日常生活の憩いという意味では、最も大切な人という位置づけに置いてもさほど不都合はない存在だろう。最悪通報されそうになっても異世界転生するから関係なかった。犯罪者が犯罪を起こす直後の思考形態を想像したけど、別に犯罪行為を行うわけではないから気にしないことにした。

 最後の別れのさよならを。
 それだけを伝えられる相手が、たまたま可愛いコンビニ店員だったというだけの話だ。
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