第1話

文字数 2,830文字

 1
「大人になったら結婚したいな。」
 わかった。その願い、叶えてあげる。
 だから、忘れないでね。

 2
 私、西園花梨(にしぞのかりん)、16歳。高校2年生。成績は中の下。なんなら下。身長、体重もそこそこ。顔もまぁ、そんなに悪くない。平々凡々。どこにでもいるような女子高生だ。
「自分で言うのもなんだけどね。」
「何ぶつぶつ言ってんだよ。」
「うるさいなぁ九十九。モテないぞ。」
「そこまで言わなくてよくね!?」
 日当たり良好な窓際の席に座る私の右隣で、なんやかんやと茶々を入れてくる男は『吉良 九十九(きら つくも)』という。同じ部活の仲間で、1年生の頃からの仲だ。成績は私と同じくらいかそれより下。性格はなかなかに良い奴だと思う。
「そうだ。花梨。紅流(こうる)先生が放課後部室に来いって。」
「えー。今日早く帰って録画見ようとしてたのに。」
「しょうがねぇよ。」
 六限目が始まろうとしている休憩時間に、先生からの呼び出しを聞いた私はとても気分が萎えた。

 3
 放課後になった。私と九十九は同じ文芸部に入っている。この高校は限界集落にある高校で、在校生が少ない。都会の人が聞いたらそれは1クラスかと言われるくらいには少ない。全校生徒50人もいるのだろうか。まぁ、そんな学校なので部活動に入っている人間はとても少ない。部活に入ってる奴なんて相当その部活が好きな奴か、青春をしたい暇人くらいだろう。そんな訳でこの文芸部に入部している好き者は私と九十九、あと3年の先輩1人の3人だけである。
「今日はなんなんだろうな。」
「さぁ。早く帰りたいなぁ。」
 廊下を歩きながら私と九十九はこれから紅流先生に言われる要件を考察していた。部室の目の前まできた瞬間、ガラッと横開きの扉が開いた。
「テメェらおせぇわ。」
 目の前に壁のように立つ男は、3年の先輩、真人(まさと)さんだ。背が高くとても顔が良い。他校に複数人の彼女がいるらしい。性格は最悪でよく九十九に集ってる。そんなクソ野郎でも私達よりはるかに頭がいい。こんな辺鄙な街の小さい高校にいるのは勿体無いくらいに。
「これでも早く来ましたー。ね、九十九。」
「俺!?いや、あの、はい。ダッシュして来ました。」
「嘘つけ。お前らぐだぐだ駄弁ってたろーが。」
「許せ。真人さん。」
 真人さんの額に手が届かないので手が届く鳩尾に人差し指と中指を揃えて突き刺す。
「誰がわかんだよ。これの元ネタ。」
 真人さんは鳩尾を抱えその場に蹲った。どうやらクリティカルヒットしてしまったらしい。
「お前ら扉の前で何してんだ。邪魔だぞ。早よ座れ。」
 奇妙な物を見るような目で私達を見下ろす紅流先生が後ろに立っていた。

 4
「近所にある神社の結界が解かれた。そこに封印してあった物の怪が解き放たれた。お前達にこれを封印して来て欲しい。」
「はい、かいさーん。」
 紅流先生が要件を言い終わった瞬間、真人さんがゲンナリとした表情で両手をブラブラとさせ、私達に解散を促す。そして、気怠げな足取りでそのまま教室を出ようとしていた。
「お疲れ様でした~!」
「紅流さん、また明日な!」
 私と九十九も机に掛けてあった鞄を肩にかけ、教室を出ようとする。
「待て待て待て待て待て!!!お前らふざけんなよ!それでも次期吉良家当主と、力を持った人間か!」
 そう。この部活は文芸部とは表向きで、本当は物の怪を退治する部活なのだ。吉良家は代々陰陽師の一家だ。戦国時代中期からこの地域で活躍する陰陽師一家らしく、例に漏れず吉良九十九も陰陽師だ。(ちなみに九十九は第九十九第目の当主になるみたいなので、九十九と名付けられたらしい)真人さんは去年私がこの学校に転校した少し後に転校してきた先輩だ。真人さんもよくわかんないけどなんか力を持ってるらしい。九十九曰くめっちゃ強いみたい。私も力を持ってるっちゃ持ってるんだけど、ヘボい。精々低級の式神を2~3体呼べるくらい。紅流先生も力を持っている。紅流先生は斑鳩神社の当主で、吉良家と一緒に代々この地域の物の怪達を封印したり、祓ったりしてきたみたいだ。九十九と紅流先生は昔からの付き合いで仲が良いみたい。
「俺、今日から吉良じゃないんで。」
「力?なんのことかさっぱり。」
「花梨は普通のJKデス。」
「シラを切るんじゃねぇ!!!」
 紅流先生の怒号が部室内に響き渡る。
「封印してこなかったら、お前らだけ宿題増やすからな!?」
「「「鬼め・・・」」」
 私達は渋々封印をしに、近所の神社に行くことになった。

 5
「はぁ~嫌だなぁ~俺祓うのは得意だけど、封印は苦手なんだよなぁ。」
 九十九は欠伸をしながら、私と真央さんの後ろを歩く。
「頑張れ九十九!私は応援してるわ!」
「仕事しろよ」
 なんだかんだと駄弁っていたら、神社の境内に着いた。まだ、鳥居をくぐっただけだというのに、拝殿から凄まじい妖気を感じる。
「やばいな・・・。これ俺達だけで封印できるのかな・・・」
 九十九が弱音を吐いていると、ドゴォンと轟音が響き、砂埃の中から、物の怪に刀を突き刺した真人さんが出てきた。
「ヤベェ。祓っちまった。」


「祓った~~~!???????」
封印失敗の旨を紅流先生に報告すると、とんでもない形相で私達を見てきた。
「お前ら俺封印してこいって言ったよなぁ!????」
「うるせぇな。別に目的は達成したから細かい事ぁいいじゃねぇか。」
真人さんが耳をほじりながらうんざりとした表情で紅流先生に対抗した。
「お前の感覚に無いだろうから言うけどな、あそこに封印してあった物の怪はこの町を護る抑止力の役割を果たしてたんだ。アイツがあそこに居ることによって、ここはアイツの縄張りだ。結界内にいる低級の物の怪や、町の外にいる他の物の怪達がこの町に悪さをしないために置いてあったんだ。アレの封印が解かれたならまだ、アレ自身がなくなったとなったら話は別だ。お前達とんでもないことしでかしたんだぞ。」
「だったらそんなこと俺らに頼むんじゃねぇよ。テメェでやればよかったじゃねぇか。」
「俺だって本業が忙しいんだよ。」
「まぁまぁ、紅流さんも真央さんもそこまでにしよ。な?」
ギスついてきた雰囲気を苦笑いで九十九が止める。
「で、紅流さん。この後俺達はどうしたらいいんですか?」
「・・・とりあえず今日はこのまま家に戻っていい。九十九、お前は親御さんに今日起こった出来事を伝えろ。真人、お前はここに残れ。この後の会議に参加してもらう。抑止力が無くなったとなれば、明日から物の怪達が何を仕出かすかわからない。3人とも、明日は覚悟して登校してほしい。」


「はぁ~~~~~~~~~」
バスを降り、九十九と別れた私は深いため息を着いた。これから何が起こるんだろう。力の弱い私にできることなんてあるのだろうか。悶々と色々考えていると家の目の前に着いてしまった。ドアを開けようとすると、まるで私が帰ってきたのがわかっていたかのようにタイミングよくドアが開いた。
「花梨ちゃん、おかえり。遅かったね。」
「ただいま。影央(かげお)さん。」

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