第2話

文字数 2,739文字


「花梨ちゃん朝だよー」
影央さんの声が1階から聞こえる。起きなくては。
私と影央さんは去年隣町からここに引っ越してきた。隣町は去年に起きた大災害で町一つが消え、復旧中の為住み続けることもできなかった為私達はこの町に引っ越したのだった。日当たりも良く、そこそこ広い古民家で私達は暮らしている。ベッドを抜け出し、のそのそ階段を降りリビングに向かう。リビングの扉を開けると、キッチンで朝ご飯を作ってくれている影央さんがいた。
「おはよう。花梨ちゃん。いい朝だね。」
「おはよう。影央さん。」

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「はよー花梨。」
バス停に着くと九十九が話しかけてきた。
「今日、やばいかも。」
と九十九がこわばった顔で言う。
「マジか。」
「うん。昨日オトンとオカンに話したらすげぇ顔して怒られた。親戚のじいちゃんとか色んな人集めて朝まで会議してた。」
「・・・・・・。」
「まぁ、俺と花梨のせいじゃないんだけどさ・・・今日から俺ら帰りのバス一番遅いやつでしか帰れないかも。」
「マジか・・・。」
これから起こることに恐怖を覚えながら学校に向かうバスに乗った。

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結論から言うと恐ろしいほど何も起こらなかった。
「おかしい。普通だったら自由になった物の怪達が何かしてくるはずなんだ。」
紅流さんが神妙な面持ちで言う。
「今何かすれば祓われる。それを見越して何もしてこねーんじゃねぇの?」
真人さんがめんどくさそうに言い放つ。
「だとしても、だ。それと、低級の物の怪を見かけたとしても奴ら、何かに怯えてるんだ。まだ強い物の怪がこの町にいるみたいにな。」
「・・・・・・・・」
「そこでだ。お前達、奴らに接触して話を聞いてきてくれないか?」
「「「はぁ!?」」」
「いや、俺だと力が強すぎてアイツら直ぐに逃げるんだよ。真人はともかく、九十九と花梨は話すことができるんじゃないかと思ってな。」
「それ弱いって言ってます?紅流さん。」
「成長の余地あり。将来有望って言ってんだよ。」
「物は言いようですね紅流先生。」
「ははは。まぁ、そういうことでよろしくな。」

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「嵌められた。パシリもいいとこじゃねぇか。俺は帰る。」
真人さんは早々に戦線離脱した。
「花梨、ごめん!オトンから連絡あって、今から隣町に集会に行かなきゃいけなくなった!事情聴取は1人でよろしく!」
九十九も戦線離脱してしまった。
「1人って無理ゲーじゃなぁぁい!????」
校舎の裏庭で私は叫んだ。低級の物の怪との対話といえど物の怪は物の怪だ。何を仕出かすかわからない。私は3人の中で一番弱い。何かされた時に祓えるのか。
「まぁ、そんな心配してもなるようにしかならないよね!事情聴取がんばろ!」
えいえいおーと気合を入れ、私は近所の物の怪が集まる祠に向かった。

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「ほっこら、祠~♪」
祠に向かうまでの間、暇だったので適当に口ずさんでいた。決して1人で怖いわけじゃない。暇だからだ。鼻歌を歌いながら歩いていると、すぐ目的地の祠に着いた。
「ここがあの女のハウスね。なんちゃって。」
冗談を言いつつ、物の怪たちを探す。
「全然いないな。どころだろう?」
クルクルと祠の周りを回っていると、1匹のウリ坊が出てきた。
「お姉ちゃん何してるの?」
「おっ!第1村人発見!」
「?」
「あのさ、ここら辺で怖い物の怪見なかった?」
「さぁ…見てないけど…」
「そっか!ありがとう!」
「お姉ちゃんはそれを聞いてどうするの?」
「えっと…怖い物の怪をやっつけちゃうぞー…なんて…へへ」
「怖くない?」
「大丈夫だよ。私、強いし。」
「そっか。」
可愛いウリ坊と話してると、途端に姿が変わり大きい猪の姿をした物の怪になった。
「じゃァ、オねぇちャンを食べれバ強くナれるね??いタだキます。」

13
「花梨大丈夫かな~。アイツ1人にしちまったなぁ~」
放課後、花梨と別れた俺は、オトンに連れられ隣町の馬鹿でかい神社に来ていた。親戚一同が集められ、何かしらの儀式をするみたいだった。境内にある長屋の中で俺は机に突っ伏していた。
「九十九!!何ボソボソ言っとんじゃ!!」
「うっさいなぁお母さん!今友達の心配してるんだよ!」
はぁ・・・とため息をついた瞬間、襖が開かれた。
「大変だ!!〇〇町(花梨ちゃん達が住んでる町)に物の怪によって大規模結界が張られた!!」
「!!!」
親戚一同が驚いている中、俺はいまいちことの重大さがピンと来なかった。
「なんだと!?中にいる者はどうなってる!?」
「通信はできるのか!?」
「遮断されてます。式神も送り込めません。」
ざわざわと親戚の連中が騒ぎ立てている。
「・・・お母さん。これ結構やばいの?」
「やばいどこじゃないわ、バカタレ!いいか、九十九。物の怪が結界を張る時なんて大概良いことは起こらない。物騒なことばかりだ。隣町のM町もそうだった。大規模結界が張られ、1日にして町が消失した。その町に住んでいた者は消えた。存在丸ごと無かったことになった。そういうことだ。今回の結界をはった奴が何物かはわからんが、死人が出るだろうな。」
「ババァの言うとおりだぜ九十九。中はヤベェ事になってる。死人も出てる。このままだと手遅れになる。花梨も、紅流も。」
オカンとの話に割って入ってきたのは真人さんだった。
「わぁ!???真人さん!???」
「おう」
どこからともなく突然真人さんが現れた事に驚いてしまった。俺達の目線に合わせてしゃがんでいた真人さんが勢いよく立ち上がった。
「陰陽師の皆様、耳をかっぽじってよーく聞きやがれ!結界内では、この数時間で100人以上が行方不明になった!斑鳩紅流が結界を張った張本人を調査中だ!だが、以前成果は無し!相手はこの前俺が祓った物の怪よりも数段格上と予想される!結界内に外からの干渉は不可!今こうしている間にも人が消えている!通信系の式神を持ってる奴は直ちに召喚しろ!俺が連れて行く!九十九お前も行くぞ!」
真人さんがつらつらと現状を説明している最中に、突然名前を呼ばれて驚いてしまった。
「え」
親戚中から非難の声が上がった。
「何故九十九だけなんだ!中に入るのは親父さんの方がいいんじゃないか?」
「そうだ。それに1人だけ連れて行くといった言い方なんだ?複数人連れていけないのか?」
鬱陶しそうに一瞥した後、真人さんは口を開いた。
「俺は斑鳩紅流の式神だ。紅流は今、俺や他の式神を召喚することにほとんどの力を使ってる。だから何人も結界内に呼び出せるリソースが無い。せいぜい俺ともう1人くらいしか連れていけねぇんだよ。九十九を指名したのはこいつのダチが消えたから。以上。」
「やはり九十九じゃなくても」
「ごちゃごちゃうるせぇな!!!行くぞ九十九!!」
「えっ!?あっ、ちょっ!???」
真人さんに抱えられたと思ったら、次の瞬間に俺は真昼間の町にいた。
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