0話

文字数 1,147文字

ずっと、1人だった。
何十年、いや、もう何百年と経っているのだろうか。
昔はここにも村があった。
人がいた。子らがいた。
しかし、いつの間にか1人、また1人と姿を消していき、残されたのは人が住んだ跡と社だけだった。
楽しかった。だから、記憶が色褪せるくらいあの日々を思い返した。
思い返して、思い返して、思い返した。
とたんに寂しくなった。
もうここには誰も来ない。
人はこないのだと。
思い知った。
どんどんどんどん朽ちてく社。
だんだんだんだん堕ちてくこの身。
もう自分は神ならざるものになるのだと絶望していたその時、鳥居をくぐった少女がいた。
背丈から見るに、歳は12歳くらいだろうか。
少女は毎日僕の元に来た。
そして、沢山のお供え物をくれた。
色々な話を聞かせてくれた。
久しぶりに神としての自分を思い出せた。
楽しかった。嬉しかった。
こんな時間が長く続けばいいのに。そう思った。
しかし、現実は非情だった。
彼女がここに来れる期間というのは、夏休みの期間だけだったみたいだ。
ここで別れるのは非常に惜しかった。
離れ難かった。
しかし、人間と神は流れる時間が違うのだ。
きちんと親の元に返してやらねば。
心惜しかったが、一時の幸せを得れただけでも感謝しよう。これでいい。
手放すつもりだった。
「私、大人になったら神様と結婚したいな」
少女の口から出たのは、願ってもない言葉だった。
そうか。そうなのか。それがこの子の願いなのか。
願われたのならしょうがない。
僕は曲がりなりにも神なのだ。
願いを叶えようじゃないか。
「わかった。大人になるまで待ってるね。」
別れ際、彼女に御守りを渡した。
自分の神気がたっぷり籠った渾身の御守りだ。
どこにいても護れるように。
どこにいても君の姿が見えるように。
そう、願いを込めて作った。
何も知らない少女はそれを受け取り笑顔で別れの挨拶を言い、去っていった。
それから僕はまた1人に戻ったが、今までのように寂しくなかった。
何故なら彼女に持たせた御守りを通して彼女の生活を見れるからだ。
幸せだった。
離れていても繋がっていた。
時は経ち、彼女は16歳になった。
彼女に恋人ができた。
青臭い人間の子供(ガキ)だ。
どうして?
僕と結婚するって言ったのに?
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
取られたくない!
一人はもう嫌だ!
気づいたら町を1つ滅ぼしていた。
僕を縛っていた、神たらしめていた社は消え、目の前には瓦礫の山が出来上がっていた。
僕はもう、神様ではなくなっていた。
少し空いた広場にあの子が一人ぽつんと立っていた。
彼女に手をかざす。
力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる彼女を抱きとめる。
「大丈夫。僕がいるから。」
彼女の記憶を改竄した。
神気がたっぷりある地を選び、そこに拠点を作り移り住んだ。
これからは、ずっと一緒だよ。
だから、目移りなんてしないでね。
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