第22話
文字数 1,489文字
カメラを置き、奈々子は再度写真を手に取っているが、何度見ても普通の写真にしか見えないはずだ。裏返しにしても真っ黒いだけ。さっきから指でこすっているが、そんなことをしても無駄だという事は、とっくに確認済みだ。
「もう一回だけ試してくれない? フィルム代は出すから」
奈々子は上目遣いをしながら頭を下げた。
「一万だ! それ以上はビタ一文まからん!」
その言葉に動揺を憶える構えを見せる奈々子は、仕方が無くといった表情で財布から一万円札を取り出し、テーブルに叩きつけた。
「どうも」
札をたたんで財布にしまうと、相沢はカメラを構え、さっきとはまた質問をした。
「君の好きな有名人は誰かな? もちろんさっきとは別の人で、だ」
眉間にしわをよせ、しばらく考えるしぐさを見せたが、やがて何かが思い浮かんだらしく、奈々子はOKサインを出してきた。相沢はさっそくストロボを光らせる。
写真を見た相沢は、にやつきながら口角を歪めた。
「『段田フミヒロ』とは、またマニアックな芸人を選んだな。職業柄、俺もテレビにはうるさい方だが、あいつはつまらない。はぐらかそうとして、ワザとマイナーなタレントを選びやがったな」
だが、話によるとワザとではないらしい。世間の評価は知っていたようだが、彼女にとって彼の出演した深夜のやらせ番組には、忘れられない程の衝撃を受けたと語った。最初は『コガネムシ宮田』が浮かんだらしいが、あまりにもメジャーすぎると考え、段田フミヒロにしたらしい。
「でも不思議ね。カメラや写真には何の問題も無いように見えるわ。いったいどんなトリックが隠されているというの?」
それを聞いた相沢は吐き捨てるように言葉を投げかける。
「降参かい? 見破りの達人ともあろう者が、これしきのトリックも解明できないとはな。ま、最初から期待していなかったがね」
よほど悔しいに違いない。奈々子は今にも泣きそうなくらい、陰鬱な表情を見せていた。これまで数々のトリックを解き明かしてきただけに、解明できない謎があるということは、彼女にとって敗北を意味するのであろう。
「……一週間待って。絶対見破って見せるから」
すがるような目で奈々子は懇願した。
「言葉に気をつけな。もっとちゃんとした頼み方ってのがあるだろ。あんたのような子どもには判らないかも知らないが、大人にはこういう時、やることはあるんだよ」
大人げないと思いつつ、つい口走ってしまった。これではまるで悪人の台詞じゃないか。
すまん、言い過ぎたと口から出かけたところで、奈々子はソファーから立ち上がって膝をつき、両手を床に這わせると、頭をゆっくりと下げた。
「……一週間待ってください。お願いします」
まさか本当に土下座するとは!
なんだかいたたまれなくなり、カメラを持ち上げると、相沢はプレハブ小屋の扉を開けた。
ふと、立ち止まった相沢は、振り向きざまに、
「十日だけ待ってやる。トリックが判らなければ、あんたの秘密を暴露してやるからな。俺の掴んだ情報によると、かなりヤバい事を企てているようじゃないか」
そう言い残し、最後にもう一度シャッターを切る。出来上がった写真を確認すると、その場に投げ捨てた。
相沢は汗を拭きながら引き戸を閉めると、長いながい階段を降り始めた。
彼女とて、
だが、仮に公表したからといって、誰も本気にしないことも知っている。相沢も初めは信じられなかったくらいなのだから。
しかし最後の写真を見て、疑心は確信に変わった。やはり彼女は、あのいたいけな顔の裏で恐ろしい企てを目論んでいるのは間違いなかった……。
「もう一回だけ試してくれない? フィルム代は出すから」
奈々子は上目遣いをしながら頭を下げた。
「一万だ! それ以上はビタ一文まからん!」
その言葉に動揺を憶える構えを見せる奈々子は、仕方が無くといった表情で財布から一万円札を取り出し、テーブルに叩きつけた。
「どうも」
札をたたんで財布にしまうと、相沢はカメラを構え、さっきとはまた質問をした。
「君の好きな有名人は誰かな? もちろんさっきとは別の人で、だ」
眉間にしわをよせ、しばらく考えるしぐさを見せたが、やがて何かが思い浮かんだらしく、奈々子はOKサインを出してきた。相沢はさっそくストロボを光らせる。
写真を見た相沢は、にやつきながら口角を歪めた。
「『段田フミヒロ』とは、またマニアックな芸人を選んだな。職業柄、俺もテレビにはうるさい方だが、あいつはつまらない。はぐらかそうとして、ワザとマイナーなタレントを選びやがったな」
だが、話によるとワザとではないらしい。世間の評価は知っていたようだが、彼女にとって彼の出演した深夜のやらせ番組には、忘れられない程の衝撃を受けたと語った。最初は『コガネムシ宮田』が浮かんだらしいが、あまりにもメジャーすぎると考え、段田フミヒロにしたらしい。
「でも不思議ね。カメラや写真には何の問題も無いように見えるわ。いったいどんなトリックが隠されているというの?」
それを聞いた相沢は吐き捨てるように言葉を投げかける。
「降参かい? 見破りの達人ともあろう者が、これしきのトリックも解明できないとはな。ま、最初から期待していなかったがね」
よほど悔しいに違いない。奈々子は今にも泣きそうなくらい、陰鬱な表情を見せていた。これまで数々のトリックを解き明かしてきただけに、解明できない謎があるということは、彼女にとって敗北を意味するのであろう。
「……一週間待って。絶対見破って見せるから」
すがるような目で奈々子は懇願した。
「言葉に気をつけな。もっとちゃんとした頼み方ってのがあるだろ。あんたのような子どもには判らないかも知らないが、大人にはこういう時、やることはあるんだよ」
大人げないと思いつつ、つい口走ってしまった。これではまるで悪人の台詞じゃないか。
すまん、言い過ぎたと口から出かけたところで、奈々子はソファーから立ち上がって膝をつき、両手を床に這わせると、頭をゆっくりと下げた。
「……一週間待ってください。お願いします」
まさか本当に土下座するとは!
なんだかいたたまれなくなり、カメラを持ち上げると、相沢はプレハブ小屋の扉を開けた。
ふと、立ち止まった相沢は、振り向きざまに、
「十日だけ待ってやる。トリックが判らなければ、あんたの秘密を暴露してやるからな。俺の掴んだ情報によると、かなりヤバい事を企てているようじゃないか」
そう言い残し、最後にもう一度シャッターを切る。出来上がった写真を確認すると、その場に投げ捨てた。
相沢は汗を拭きながら引き戸を閉めると、長いながい階段を降り始めた。
彼女とて、
あのこと
は知られたくないハズだ。だが、仮に公表したからといって、誰も本気にしないことも知っている。相沢も初めは信じられなかったくらいなのだから。
しかし最後の写真を見て、疑心は確信に変わった。やはり彼女は、あのいたいけな顔の裏で恐ろしい企てを目論んでいるのは間違いなかった……。