第23話 完結
文字数 1,234文字
五日後。
予想よりずいぶん早く、相沢は奈々子に呼び出され、再び九龍研究所を訪れていた。毎度ながら階段を上がるのに苦労させられる。それもこれもエレベーターが調整中のままのせいだ。
どうにか昇りきると、前回と同じく喉がカラカラになっていた。前の事があったので、この日はギンギンに冷えたペットボトルのスポーツドリンクを二本用意していた。だが、すでに一本は空となり、残りも半分以下になっていた。
九龍研究所と書かれた扉をノックもせずに横に開く。
中には誰もしない。自分で呼び出しておいて、何というありさまだろう。
「邪魔なんだけど」
振り返らずともすぐに判る。声の主は奈々子だった。
彼女は相沢を押しのけると、ふてぶてしい態度でソファーに座った。五日前とはずいぶん雰囲気が違う。呼び出したからにはカメラの秘密を解いたのだろうが、それにしてもあからさまだ。
予想通り、彼女はカメラの秘密を解き明かしたようだった。
「トリックが判ったわ。SHOGOKUDOが何を意味するかもね」
ドキリとして狼狽の色を隠せないが、それでも相沢はポーカーフェイスを決めこむ。
「知っているのかい、お嬢ちゃん。そのブランドを」
緊張のあまり唾を呑み込むが、足の震えが止まらない。
「風の噂で聞いたことがあるの。SHOGOKUDOとはブランド名ではなく、もちろん会社でもないわ」
「では何だというつもりだ。まさか俺が刻んだとでも?」
すると奈々子は頭巾の下から一枚の写真を出した。もちろん何の仕掛けもないただの写真である。
相沢は手に取ると、そこに映っていたのは……!
「……佐倉伊織さんで間違いないわよね。あなたの婚約者の。彼女からすべてを聞いたわ。餃子八十七皿は高くついたけど、おかげで面白い話が聞けたわよ」
ひと呼吸おいて、奈々子は決定的な言葉を言い放った「心を映し出すカメラなんて反則もいい所じゃなくて? でも『念スタントカメラ』とは言いえて妙ね」
まさか伊織と接触していたとは!
うなだれて覇気のなくなった相沢は、もろ手を挙げて降参の構えを見せると、そのまま立ち上がり、ふらふらとドアに手をかけた。
背後からは奈々子の高笑いと共に、例の決め台詞が聞こえてきた。
「私に解けないトリックは無い!!」
結局金で釣ったんじゃないかと喉まで出かかったが、その言葉を呑み込み、八月の猛暑の中、スポーツドリンクを飲み干しながら階段を降りていった。
一階に降りたところで、何気なくエレベーターに目を向けると、来た時にはあったはずの、故障中を示す貼り紙がなくなっていた。
試しにボタンを押してみると、滞りなく動作する。
「あのクソガキ、バカにしやがって」相沢はエレベーターのドアを蹴った
どうやら見破りの達人にしてやられたようだった。
相沢が帰るのを確認した奈々子は、奥に積んであるブルーシートをめくった。
そこには四つの物体があり、静かに脈動している。
それは彼女が目論む恐ろしい計画に、絶対に欠かせないものだった……。
予想よりずいぶん早く、相沢は奈々子に呼び出され、再び九龍研究所を訪れていた。毎度ながら階段を上がるのに苦労させられる。それもこれもエレベーターが調整中のままのせいだ。
どうにか昇りきると、前回と同じく喉がカラカラになっていた。前の事があったので、この日はギンギンに冷えたペットボトルのスポーツドリンクを二本用意していた。だが、すでに一本は空となり、残りも半分以下になっていた。
九龍研究所と書かれた扉をノックもせずに横に開く。
中には誰もしない。自分で呼び出しておいて、何というありさまだろう。
「邪魔なんだけど」
振り返らずともすぐに判る。声の主は奈々子だった。
彼女は相沢を押しのけると、ふてぶてしい態度でソファーに座った。五日前とはずいぶん雰囲気が違う。呼び出したからにはカメラの秘密を解いたのだろうが、それにしてもあからさまだ。
予想通り、彼女はカメラの秘密を解き明かしたようだった。
「トリックが判ったわ。SHOGOKUDOが何を意味するかもね」
ドキリとして狼狽の色を隠せないが、それでも相沢はポーカーフェイスを決めこむ。
「知っているのかい、お嬢ちゃん。そのブランドを」
緊張のあまり唾を呑み込むが、足の震えが止まらない。
「風の噂で聞いたことがあるの。SHOGOKUDOとはブランド名ではなく、もちろん会社でもないわ」
「では何だというつもりだ。まさか俺が刻んだとでも?」
すると奈々子は頭巾の下から一枚の写真を出した。もちろん何の仕掛けもないただの写真である。
相沢は手に取ると、そこに映っていたのは……!
「……佐倉伊織さんで間違いないわよね。あなたの婚約者の。彼女からすべてを聞いたわ。餃子八十七皿は高くついたけど、おかげで面白い話が聞けたわよ」
ひと呼吸おいて、奈々子は決定的な言葉を言い放った「心を映し出すカメラなんて反則もいい所じゃなくて? でも『念スタントカメラ』とは言いえて妙ね」
まさか伊織と接触していたとは!
うなだれて覇気のなくなった相沢は、もろ手を挙げて降参の構えを見せると、そのまま立ち上がり、ふらふらとドアに手をかけた。
背後からは奈々子の高笑いと共に、例の決め台詞が聞こえてきた。
「私に解けないトリックは無い!!」
結局金で釣ったんじゃないかと喉まで出かかったが、その言葉を呑み込み、八月の猛暑の中、スポーツドリンクを飲み干しながら階段を降りていった。
一階に降りたところで、何気なくエレベーターに目を向けると、来た時にはあったはずの、故障中を示す貼り紙がなくなっていた。
試しにボタンを押してみると、滞りなく動作する。
「あのクソガキ、バカにしやがって」相沢はエレベーターのドアを蹴った
どうやら見破りの達人にしてやられたようだった。
相沢が帰るのを確認した奈々子は、奥に積んであるブルーシートをめくった。
そこには四つの物体があり、静かに脈動している。
それは彼女が目論む恐ろしい計画に、絶対に欠かせないものだった……。