第20話

文字数 1,053文字

 ※ 本作は『念スタントカメラ』のネタバレを含んでいます。
   未読の方はご注意ください。
   他にも、ネタバレではありませんが、他作品の小ネタもちりばめた、
   内輪ネタ的な内容となっております。
   よって、意味の通じ難い箇所もございますので、
   ご了承の上、お読みください。








「あんたが九龍奈々子(クーロン、ななこ)か? まさかこんな子どもだったとは思いもしなかったぜ」
 少女の前にカメラを置いた。今となっては珍しい、インスタントカメラだ。チェキなどとは違い、画像も荒く、旧式でサイズもかなり大きいポラロイド式である。
 八月だというのに黒頭巾を目深に被った少女が、腕を組みながら、見下げるような眼で威嚇していた。プレハブで構築された部屋の奥に、大きめのブルーシートで何かを覆っているのが見える。
「何の御用かしら。このカメラが一体どうしたというの?」
 九龍奈々子はすまし顔で男を睨み返してくる。まるで一片の隙も見せないように。
 渡した名刺には、フリーカメラマンという肩書と相沢(あいざわ)の名が記されている。このガキは知らないだろうが、フリーカメラマンの相沢といえば、業界では知らないものはいないと言われるほどの有名人だ。カメラの腕もさることながら、元アイドルグループ『ティンカーベルズ』のメンバーである佐倉伊織の交際相手としても名を馳せている。
 尋常ではない暑さに辟易しながら、相沢はせめて窓くらいは開けて欲しいと見回したが、ここの窓は全てはめ殺し。日差しを遮るカーテンすらなかった。
 七階建てのビルの屋上にあるこの研究所(?)には、クーラーなどの空調設備が整っていないらしく、蒸し暑くてたまらない。対面の奈々子は、いたって涼しい顔をしながら座っているが、きっとやせ我慢に違いない。
 運動不足の相沢は、地獄のような階段を上ったうえ、さらにこの暑さだ。
 だくだくに流れ出る汗を、相沢はハンカチで何度もふき取った。冷蔵庫から出された茶色の飲み物は、麦茶ではなくホットココア。この女、喧嘩を売っているとしか思えない。
 手っ取り早く済ませようと、相沢は要件を切り出した。
「君はこれまで、数々の事件を解決してきたようだね。確か『見破りの達人』って呼ばれているそうじゃないか。そんな君にぜひともチャレンジしたいと思ってね」
 そう言って相沢は目の前にあるカメラを持ち上げて、奈々子の顔の前で構えた。「君の尊敬する人はだ~れ?」
 呆気にとられる表情を見せたものの、脳内に何か浮かんだらしく、奈々子の瞳の色が変わった。
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