第2話 相談者の面接

文字数 2,500文字

 初めの面接者は坂崎圭太郎と言い、年齢は五十歳である。
 彼はがっちりとした体格で、これなら何かアクシデントで賊と対面しても安心できそうである。履歴書には柔道と剣道で有段者になっている。

 しかし、その容貌は思いの外優しい。
 彼に対応したのは当然、社長の竜崎慎也だった。
 慎也は一目見て彼が気に入った。

 後は圭太郎自身の人柄である。
 こういうタイプの人間は(依頼者から信頼されること間違いなし)と思うからだ。

 面接室の中で、横の事務机に座り、パソコンを操作しているのは事務員の坂咲澄子(さかさきすみこ)である。
 彼女は面接者が発言した内容を記録するために、ノートパソコンで事務をとっている。
 この面接こそが、その人物を知るための重要な鍵になるからである。

 採用された人物が、今度は回答者として直接に依頼者と対応するために、生半可な人物では困るからである。
 それ相応の能力が必要とされる。

 しかしその能力とは、一般的に言われている社会の常識以外にも、裏社会を知っていたり、
一般人が思いつかないようなアイディアや創造性を持ち、かつ大胆な発想を持っいる人物が有利になる。

 そして冷静な頭脳と、明快な回答を用意できる人物が必要なのだ。
 更には、人を惹き付ける魅力と、物事を最後までやり遂げる強い意志を持つ人物なら申し分ない。

 話術が巧みでなく、木訥(ぼくとつ)でも、人柄が良ければ良い。
 何よりも依頼人が安心して、心の中を打ち明けられる人物なら最高である。

 出来れば、そういうオールマイティな人物が好ましい。
 当然ながら反社会的な人間ではなく、健全なる市民でなければならない。
 しかし、そのような人物が本当にいるのだろうか、と思うだろうが、意外とこの世の中には探せばいるようだ。

 こういう人物は、あまりにその個性が強く、協調性がない人が多く、有能であっても、その活躍の場がないのが現状でもある。
 しかし、そういう人物に限って、自分の守備範囲の中では、その能力を遺憾なく発揮できる場合が多い。面接では、そういう人物を発掘するのだ。

 頭脳は優秀なのに、その特殊性がある為に企業からは嫌われるそんな人物を慎也社長は求めていた。しかし、それを仕事にする以上は、会社で決められたルールを守らなければならない。その辺りの見極めが大事なのだ。

 そういう人材を集めようというのがこのユニークな会社である。
 故に、その面接は社長の慎也にとってはとても重要な作業となる。


 広い部屋の応接室には慎也が深々とソファーに座っている、その前に緊張した面持ちで坂崎圭太郎が座っていた。

「ようこそ、この(苦しみ悩みごと解決屋)の応募に来てくださりありがとうございます」
 慎也はこの紳士然とした圭太郎に敬意を表し頭を下げた。
 初心者にこのような態度をとる慎也も珍しい。

「いえ、よろしくお願いします」
「さて、圭太郎さんの経歴を履歴書で見させて頂きましたが、経歴は警察官でしたね」
「はい、そうです」
「警察を定年前に辞めた理由を教えてもらえませんか」

「そうですね、その理由といえば、あの組織が嫌になったのかもしれません」
「と、言いますと?」

「はい、私が警察官なろうと思ったのは、市民のために悪い人間を捕らえて改心させ、
彼等が二度とこういう犯罪を起こさないように見守って上げたいし、彼等の心のケアにも力になってやりたい、という気持ちがあります。
 それから、市民が安心して暮らせる社会になれるように、と願っていたからなのです」

「なるほど、でもそれは間違ってはいないのではないですか?」

「ええ、確かにそうです。しかしあの組織の中でも、いろいろなことがありますし、新聞などで報道されるように誤認逮捕ということや、厳しい取り調べがあります。始めから人を疑ったような目で見るような仕事に、私が向いてないと思ったからです」

「優しいのですね、では、そのようなあなたが、なぜこの仕事に応募をしたのですか?」
「はい、ここの募集内容が人のためになるような仕事、と書いてあり、それがその主な動機です。それにお恥ずかしい話ですが、正直に言いますと、報酬も魅力ですから」

「なるほど、お子様もいますしね」
「はい、子供達にもお金が掛かりますから」
「そうでしょう、良く分かります」

「それに、今までの経験したことが、役に立てるのではないかと思ったからです」
「そうですか、それは中々いい考えですね、それで報酬についてはどのようにお考えですか?」

「ここの案内を見てみますと、依頼者にとっては、決して安くない依頼費用ですが、それで客は満足してもらえるならば、それでいいと思います。その結果として正当な報酬をいただければ良いのです」

「そうですね、なかなか素晴らしい考えをお持ちだと思います。しかし、ここはただ机の前に座って回答するだけではなく、依頼者を満足する為に、調査等、自ら出向いて情報を集めたりする場合もあるので、簡単で単純な仕事ではありません、体力勝負みたいなこともあります。
 しかし、報酬は仕事に見合ったものをお支払い致しますので、貴方なら問題ないでしょう。
良い仕事が出来そうです。後は、貴方次第です。成果次第ですよ……。お分かりだとは思いますが、それでよろしいのですか」

「はい、そのつもりでおります」
「あと、報酬はその月の成果を私が判断して、給料として支払います。ですから成績次第でその額は変わります、それでよろしいですね。当然、調査に必要な諸経費、交通費、健康保険などの社会保障も充実していますので、安心して下さい」

「了解しました」
「では、面接はここで終わりますが、後ほど採否は郵送で通知させていただきます」

 そう言いながら、慎也は、リストの彼の名前の横に丸印をつけて、彼を採用することに決めた。

 圭太郎は、慎也とはまるで正反対な性格のようだが、彼に決めた。
 しかし、圭太郎が後に、思わぬ仕事ぶりを発揮するとは想像も付かなかった。
 人は外観だけや風貌だけで、人を決めつけてはならない。

 この会社の面接には、次から次へとユニークな人物が面接を待っていた。



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