シルバー・ローニン(3)

文字数 727文字

 居候先の寺の住職から客が来ていると言われて……客間まで行ってみれば、あいつだった。
 着ている革のジャケットはバイク用らしい。
「何しに来た?」
「い……いや……ちょっと謝りに……」
「判った。謝罪は受け入れた。さっさとお帰りいただけると有り難い」
「おい、待て」
「色々と忙しんだ」
「いや……どっかに遊びに行かない?」
「はぁ?」
「この前は、あたしが悪かったんで、何かおごるよ」
「おごる? 何を?」
「いや、昼食とか……」
「言っとくが、私は外食の注文は多いぞ」
「そう言えば……名前聞いてなかったな……。あたしは木村(あさひ)だ」
「すまん、本名は無い」
「へっ? 今、何て?」
「本名は無い」
「あの……『本名は無い』って言ったように聞こえたけど……」
「ああ、間違い無い」
「何がどうなってんだ?」
「色々と事情が有るんだ。一応は高場(てる)と名乗っている」
「ええっと……」
「また、名前で他人を小馬鹿にする気か? それなら夕食もおごってもらうぞ」
「そうだけど……偽名なら、もっと平凡な名前を……」
「私の故郷の基準では……日本人の名前としては、そう変なモノには思えなかったが……」
「い……いや……ちょ……ちょっと古臭い名前の気が……」
「古臭いって、何時(いつ)ごろだ? 二〇世紀か?」
「い……いや……二〇世紀は二〇世紀だけど……その……」
「お前は、私の名前を二〇世紀のどの辺りの名前だと思ったんだ?」
「……戦前……」
 ああ、私の「故郷」の()()()()()()に相当する戦争の前の意味か……。「ここ」の呼び方では第2次世界大戦やアジア太平洋戦争だったか。
「ああ、なるほど……納得した訳ではないが、お前が変に思った理由は理解出来た」
「お前……一体、どこの出身なんだよ?」
「長くなるんで、ゆっくり話せる時に説明する」
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