第7話

文字数 2,843文字

 午前の6時頃になって、急いでマルカが帰って来た。
「雷蔵様。裏の世界に詳しい男。博田 定則から聞いた話なのですが、どうやら、九尾の狐は今現在はA区にいるそうです。大金を支払いましたので、正確な情報です」
 マルカの声色は少し怪訝なところがあった。
 僕も同じ気持ちだ。
「A区……」
 A区は今でも農業や漁など昔ながらの生活をしている。田舎のようなところだ。日本屈指のハッカーが都会のB区にいないのは、なんだか腑に落ちない。
 いくらなんでも、最先端の情報を入手しにくいのでは?
 情報が入手できないと命に関わるのでは?
 原田はどうしてそのことを僕に一度も言わなかった?
「雷蔵様~~。もう少し入院しないと~~」
 ヨハが心配したが、僕は起き上がり着替えた。
「まずは九尾の狐に会いにA区に行こうよ。マルカ、ヨハ。敵はC区だから危険が相当にあるけど、今は情報を集めておかないと、後々困るだろう」
「雷蔵様~~。傷の手当はしっかりと~した方が~~」
 僕はヨハを押しのけて、階下へのエレベーターに向かった。マルカも心配しているが、早めにA区に向かいたい。
 受付と薬局に行って、念の為、止血剤と痛み止めを貰って、お金を支払い駐車場へ行くと、ボロボロのランボルギーニはマルカが修理にだしたようだ。ヨハが赤色の4座席のフェラーリを乗って来ていた。
 僕はフェラーリに乗ると、助手席にヨハ。後部座席にマルカが座った。
 フェラーリで国道30号線に向かう。
 敵も巨大な組織になって、ますますリスクが膨らんできた。
 だが、今さらゲームのやり直しは出来ない。
 前に進んで何らかの利益の可能性を得る。それが、僕の信条だ。

 途中、ガソリンスタンドの喫茶店で休憩をした。
 ネズミを思わせる髭面のマスターにコーヒーとハンバーガーを頼んだ。
「ふ~~。雷蔵様~~。お肉だけでは~よくないですよ~。それと、アンジェから連絡がきました~~。今現在、数体のノウハウと交戦中だそうで~~す」
 窓際のテーブル席で向かいのヨハが心配そうな声をだした。
「雷蔵様。C区は何を欲しがっているのでしょうか?」
 僕の隣のマルカは窓際にいる。
「うん。僕にも解らない……。それに、かなり本格的に襲ってきているね。まあ、10憶円分の何らかのデータがかかっているから当然だけれど。スリー・C・バックアップ……一体何なのかな? 」
 僕は欠伸をした。
「どうぞ」
 マスターが熱々のハンバーガーを持って来て、コーヒーをテーブルの上のカップに淹れてくれた。
「……どうも」
 僕はハンバーガーをかじる。
「雷蔵様。アンドロイドのノウハウをより人間に近づけることが、C区の全面技術提供案。スリー・C・バックアップの要なのですから……。私は思います。きっと、何か裏があるのではないのでしょうか?」
 マルカは小首を傾げて疑問を呈した。
「雷蔵様~~。アンジェが心配です~~」
 ヨハは俯いた。
「それは……そうだね」
 僕はそう言うと、コーヒーを啜った。
 窓には夕日が見えていた。
 遊歩道にはジョギングをする若者たちがいた。
 僕は考えた。敵がそこまでしてくるには大きな理由がある。
 それは一体?
 九尾の狐は関与しているのだろうか?
 そうであるならば、どこまで関与しているのだろうか?
 スリー・C・バックアップの裏は一体何なのだろうか?
 それに、あの坂本 洋子(九尾の狐)からの謎の電話は……?
 
 ゆっくりとコーヒーを楽しんで、一息入れると。僕たちはフェラーリで今度は高速に乗って再びA区に向かった。
「雷蔵様~~。10体のノウハウをアンジェが撃破しました。今、使用人からアンジェが全ての敵を掃討したと連絡が来ました。そして、やはりC区の興田様が指令を出しています」
 運転中に隣のヨハが自宅のアンジェの状況を報告した。
「それはよかった……C区はまだ僕たちが九尾の狐の仕業じゃないと気が付いてることは、知らないはずだし巻き返しも面白い」
 僕は前方を見つめて不敵に笑う。
「ねえ、ヨハとマルカ。このまま僕たちはしばらくの間は、九尾の狐のせいだと思って戦っていようよ」
 高速を降りて、交通量は少ない夜道を走行していると、A区の長閑な街並みや雑木林。農場や小さいスーパーなどが見えて来た。信号はいずれも青だった。
「まずは、どこか体を休ませる場所を見つけよう」
 僕は車のカーナビから手近なホテルを探した。
「雷蔵様~~!! 何か来ます~!!」
「雷蔵様!! 危険です!!」
 突如、後方から大きな爆発音が鳴り響いた。
 見ると、フェラーリのトランクの辺りが何らかの攻撃で、火を吹いていた。後部座席のマルカが左窓を開けて、マシンピストルを後方へと向けて撃ちだす。
「雷蔵様~~!! スピード~上げてくださ~~い!!」
 ヨハの声を聞いた僕は、スピードを上げた。時速150キロの猛スピードを一般の片側2車線道路で振り絞る。
 前方の車をジグザグに追い抜いていたが、周囲の車も何らかの攻撃で破壊されていった。
 敵は無差別のようだ。
 赤く明滅する電子式の液晶のバックミラーが何かを捉えた。
 敵はノウハウが乗り回す三台の全長12メートルの大型トレーラーだ。
 その中の一体のノウハウが助手席の窓から、こちらに大型のライフルを構えている。
 このフェラーリにも防弾装備の特殊仕様があるが、相手は大型の対物ライフル。マクミラン ローバー50BGMと呼ばれるものだ。
 僕は舌打ちをして、ノウハウの照準を避けようとフェラーリのハンドルを右に左に回した。周りの車は大混乱をきたす。マルカの銃撃で、真後ろにくっついた大型トレーラーのフロントガラスが次第に破壊されていった。
 すると、正常に戻ったヨハが素早い行動をした。
 足元に備えていたハンドバズーカを持ち。窓から身を乗り出し、真後ろのフロントガラスがなくなった大型トレーラーを狙って弾を撃ち込んだ。
 大爆発の後、大型トレーラーは横転し、周囲の車も何台か犠牲にした。
「雷蔵様!! 撃破しました!!」
 残りは二台の大型トレーラーだ。
「まだです、気を付けて下さい!!」
 マルカがマシンピストルで応戦している最中(さなか)、前方にガードレールが横切っていた。かなりの急カーブをしなければ時速150キロでは曲がり切れない。
 僕は軽く舌打ちした。
「雷蔵様~~!! ブレーキ~!!」
「駄目だ!! 相手はトレーラーだ!! ブレーキを使うと、アリが象の足にわざわざ踏まれにいくようなものだ!!」
「雷蔵様~~!!」
 故障したヨハと僕は真っ青になった。後方から自転車が大急ぎで走って来たのを僕の意識の片隅が捉えた。
 と、次の瞬間。
 後ろのトレーラーが落雷で、二台とも大爆発をした。
 訳も分からずに、フェラーリをガードレールの手前擦れ擦れで急停車させると、一人の男が自転車から降りてきた。
「いや~、よかったね~。今日は番組を早く終わらせたんだよ。ようこそ、A区へ。矢多辺 雷蔵さん」
 僕は呆然とその男を見た。
 藤元 信二だった。
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