三、二次元での出会い

文字数 1,206文字

 ――翌日。ここ二日は色々あったけど、僕の生活に変わりはない。信用毀損罪についてはどうなったかわからないのだが、時間が切れても何も起きなかった。
 パソコンを立ち上げてみると、またおかしなことが起きていた。信用毀損罪のファイルは消えて、今度届いていたのはアップルシードのまた違う画像と『依頼書』だった。
『清宮開様 あなたの力をお借りしたい。よろしくお願い申し上げます』
「なんだよ! 今度は依頼書って!」
 僕は頭をかきながら、アップルシードの違う画像を見つめる。歌詞カードで見たものじゃない。となると、今度は動画だ。六十曲あった中の一曲を、記憶を頼りに探す。依頼って、何のだよ!
「……これだな」
 ミュージックビデオは案外すぐにわかった。必死こいて目を皿にしてみていたせいでもある。パステルの紙吹雪が散ると、ギターリフがとミサキのつぶやきが聞こえてくる。教室の中で一心不乱に演奏をするアップルシードたちは、まるで僕が過ごせなかった青春を教えてくれるようだ。僕の趣味? 特技? そんなものはないよ、なんて笑いながらも、彼らの歌が、心が温かくなるような魔法をかけてくれる。ほっこりとしているなか、僕はひとつ気づいたことがあった。
 なんで彼らは有名じゃないんだ? これだけいい曲を作っているのに、最初の検索では引っかからなかったんだ。メジャーデビューしているのに、日の目を見ていない? こんなに素晴らしいバンドなのに。
 そこまで考えて、僕は気づいた。まるで僕じゃないか。いや、メジャーデビューしている分、彼らのほうがすごいし偉いし、優秀だ。僕と同じだと思ったところは、一生懸命作ったものが評価されないというところだ。でも、彼らは僕と違ってまだまだ売れる可能性がある。だったら。これも成り行きで情が移ったってところかもしれないが、それもまた悪くない。
 僕はタイムラインに目をやると、トレンドに引っかかっているワードを目に入れた。『二次元の世界』か……だったら。
『僕は二次元の世界で彼らに会いました! アップルシードの『Talk』も聴いてみてください! #あえての非表示』
 わざと動画サイトのURLは載せなかった。これで検索回数がアップすれば、アップルシードの曲が上位に上がるという寸法だ。これで売れろ、僕が売れない分、君らは超メジャーになるんだ。
 投稿したのは、一番拡散されると言われる平日午前五時ぴったり。偶然ではあったけれど、それほど僕はいつの間にかこのバンドのファンになってしまったらしい。笑っちゃうよな。
 アクティビティは三千。ちなみに、僕のフォロワー数は?もいないから、よっぽど検索されてるってことだ。すごいな、バズワードっていうのは。
 朝と昼、兼用の食事を摂っていると、メールの着信があった。どうせダイレクトメールだろうと削除するつもりだったが、宛名を見て目を見開いた。
「はっ? これって……レコード会社だよな?」
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