第3話

文字数 598文字

 目玉のヤロウは、それがあたかも説得力を持つかのようにいったが、一生を1メートルもある目玉を首のうえに担いで生きるのは今の自分にとって、どうしても愉快なことにおもえなかった。
 だいたい顔よりも大きい目玉は、オレの頭より重そうじゃないか。
「浮かんでいるのが見えるだろう。わたしには浮力があるのだから、重さのことは心配しっこなしだよ」と目玉は心なしか表情を明るませたようだった。
「齧られたら痛いぞ」と誰かがいった。聞き覚えのある声だ。「目玉なんかにとりこまれちゃイケない」
 声はオレのいるケージのなかで聞こえる。ハッとして周囲を見まわしたせいで(誰もいるはずはない)、鎖が情け容赦なく傷をえぐって首が下痢した腸をはるかに凌駕する激痛に苦悶する。なんとか堪えながら、それが誰の声なのかおもいだそうとしつつ、一方で、声がオレに伝えた意味内容に合理性が高いことを、オレは認識していた。
 「お試し」というワケにはいかないんだからな、とオレはおもった。いちど喰われちまったらそれまでだ。それに、顔・頭を噛みくだかれて痛くないなんていうのは、とびきりのマヌケの幻想においてのみ可能なことだ。
「そうだ。抵抗しろ。同意するんじゃない」これもまた聞き覚えのある声だが、さっきのとは明らかにちがう。
 そうだ。コンサートホールで斬首殺害された4人のうちの、KとPの声だ。
 だがしかし、頭部を失っても声は出せるものだろうか?
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