第3話 故・山田しょうきち

文字数 709文字

つまり、
山田しょうきちは、こういう男であった。
今回は、故・山田しょうきちについて記した文章である。

35歳の若さで終活を始めた。
その終活の内容というのも、とんだ気狂い者である。

まず、
「財産があれば(のこ)すな」
財産があると骨肉の争いになる。自身の経験から、そう語っている。

次に、
「家庭こそ財産。絆の価値が最も高い」
山田は喧騒(けんそう)の中に育った暴君であった。この言葉を残したのは意外である。家庭だけでなく尊敬する人を大切にしろ、という意味も含め"絆"という言葉を使ったことが推測できる。

また、
「貸しては借りるな」
これは「親父の小言」という湯呑みを見て、経験上培った語句といえる。山田は債権者であった。小金であるが、人によっては身を破滅させる程の債務を負わせたそうだ。

本心か分からないものはここだ。

「一旗上げろ。無名であれ。遺すな」
これには納得の行かない読者も多いのではなかろうか。墓石に名を刻むだけでは虚しい、一旗上げたいというのは、よく聞く話だ。
しかし、無名であれというのは矛盾しているかのように思える。彼自身、商業出版をしているから尚のことだ。遺すな、とは最終的に自分の功績があれば根絶やしにしろという意味らしい。

最期の語句はこうである。
「笑い以外、求めなくて良い」
非常にメランコリックな山田としては、不思議な話だ。彼自身700文字でオチをつけろと伝えてきた。文庫本1ページ分で1話を終わらせるのが彼の得意文章であった。小説は苦手としていて、自己啓発書を読み漁っては、コメディばかり考えていた。

今この文章自体、全て山田しょうきちが記している。故・山田とは嘘つきである。山田はとんだ嘘つき人間なのでこのような家訓も信じてはならない。
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