第1話  蜘蛛の糸

文字数 693文字

ところで、私は今夜寝ずにこの文章をしたためている。何がそうさせたのか。弟との通話で熱が出た。風邪じゃない。カッ、と来たら記さずにはいられない。痰が絡んだときの話ではないのだ。

弟は作家を10年以上している。その弟に作家活動は辞めない方が良いと言われた。その通り、ここまで熱くなれるものは無いのだから。知恵熱は出してない。しかし、生計との折り合いが付かないのは、厳しい。

作家と作家の話は盛り上がるようだ。
「直筆で名刺を作った。これがダサい」
と言うと、弟は
「ダサければダサい程いい」
と返した。印象に残るからだそうだ。そもそも、直筆で書いた名刺など見た事もない。電話が終わった後、私はすぐ様に名刺に加筆した。究極の名刺が出来上がった。名刺の極みである。全くダサくないところが落ち度であろう。

今すぐヘリに乗ってこの名刺をばら撒きたい。極みの名刺は皆こぞって拾い集めるであろう。しかし、10枚有るか無いか。希少価値の高すぎる名刺だ。ヘリでばら撒きをしても、電柱などに引っ掛った究極の名刺となるのではなかろうか。電柱に引っ掛かる名刺は聞いた事が無い。まさに電柱と名刺のラブロマンス。ひと夏の思い出。

任せたまえ、電柱に登って取る者が現れる。こぞって電柱に登るものだから、カンダタが登った蜘蛛の糸のように、電柱がへし折れるだろうこと請け合い。ニュースになる前に、号外が配られるだろうこと請け合い。
名刺10枚をばら撒いたら私はヘリ機内で、てりやきマックバーガーを食べよう。よもや卑怯(ひきょう)というまいな。俺にも成すべき事が出来た。タギってきたぞ究極の名刺!今ここに召喚せん!

しかし、ヘリは一体どこで乗るのだろうか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み