-『あの人』-

文字数 895文字

 今日もいつもと同じ電車で会社へと向かう。同じ車両に乗っているあの人。多分偶然なんだろうけど、いつも一緒。今日はネクタイ、青なんだ。こちらを見ている気もするけど……どうなんだろう? あの人と一緒だと、学生時代に友達と一緒に学校に通っていたことを思い出して、なんとなくノスタルジックな気分になるんだよね。
 それに今から職場という戦場に向かう同志って感じがして、なんだかやる気が少し湧いてくる。今日も頑張ろうね、と心の中でつぶやく。
 お昼休みにはカフェでフラペチーノ、コンビニでおにぎりとサンドイッチとサラダを購入。おにぎりの中身やサンドイッチは日によって違うけど、パスタ入りのサラダはお気に入り。朝食べていないから、お昼はついたくさん食べちゃうんだよね。
 そんな姿をいつも見ているっぽい、少し年上のあの人。見ている、なんて気にしすぎかな? 少し自意識過剰なのだろうか。あの人もいつも同じ場所で食べている。まるで一緒に食べているみたいで、なんとなく楽しい。あの人はいつもブラックの缶コーヒーとお弁当。あ、からあげおいしそう。今日、会社帰りにデパ地下で買っていこう。
 家に帰ると、誰もいないのにも関わらず、なんとなしに「ただいまぁ」と声に出してしまう。買ってきたお惣菜をテーブルの上に置くと、着ていた鎧を脱ぐ。今日も一日お疲れ様。洗顔すると、テレビをつけてスマホをのぞく。うーん、このスマホを見ていると、なんだか内側のカメラからのぞかれている気分になるんだよね。
 もし、カメラの向こう側に人がいるのなら……? ちょっと怖いけど、そんな人いるわけないし。気のせいだよね。
 あ、そういえばもうすぐ町内会費の徴収に大家さんの息子さんがいらっしゃるかも。あの人、学生さんなのかな? 私より若いみたいだけど、ちょっとだけ見た目がかっこいいんだよね。でも、なんとなくあの人の私を見る目が気になってしまう。なんかいつも何か言いたげで。……いやいや、あんな子が私に何か言うことなんてないでしょ。

 そう、すべては気のせい。私の自意識過剰。でも……「あの人」にまた、会えるなら。私は明日も生きていたいと思えるだろう。
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