-僕-

文字数 501文字

-僕―

 入社して1か月。GWを過ぎても五月病になっていないのは、電車で目が合うあの人がいるから。
 同じ駅から同じ車両の電車に乗り込む、僕の同志。同志言っても、知り合いでもなんでもないし、当然話したこともない。同じ職場でもない。同じ駅から乗って、同じ駅で降りるけど、乗り換えかもしれないし、細かいことはわからない。
 最初はなんとなく雰囲気のあるミステリアスな女性だな、と一瞬見て、スマホに目を落としていた。だが、いつの間にか彼女を平日見るのが些細な幸せになっていた。なぜそんな思いになったのかは自分でもわからない。この気持ちは恋なのだろうか。就活を機に彼女と別れて、大学を卒業してから、しばらくの間は色恋と無縁だった。そのせいで、脳が勘違いしているのだろうか?
『あの! よかったら連絡先を好感しませんか?』なんて言えたら、楽になれるのかな? 見知らぬ同じ電車で通勤している男ってだけなのに、そんなことはできやしないよな。
 今の僕は、彼女を見ているだけで十分。それで満足しなくてはならない。これ以上の感情は、自分が苦しくなるだけだってわかっているから。……でも、何かきっかけさえあれば。きっかけさえあれば。

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