-私-

文字数 512文字

―私―

 昼休み。私はこのけやきの広場で、コンビニで買った弁当を食べるのが日課だ。妻と別れて数年経った。それ以来、いまだに弁当を作ってくれる恋人はできない。いや、『恋人』はいるか。今の仕事だ。だが、その『恋人』の地位が若干危うくなってきている。
 最近仕事よりも気になっている人がいる。いつも同じ時間に、向かいのベンチに腰を掛けて、私と同じようにおにぎりとサンドイッチ、サラダを食べている女性。飲み物は近くのカフェのフラペチーノ。
 最初は『結構昼にがっつり食べる子だな』となんとなく眺めていた。しかし、彼女とはいつも同じ時間帯に昼食をとっているから、自然と顔を覚えてしまった。年齢的には私より少し下だろうか。
 若い女性に現を抜かすなんて、私としたことが情けない。だけど、彼女の不思議な魅力にいつの間にか惹かれていた。
話しかけてみようか? いや、きっと「気持ちの悪いおじさん」というレッテルを張られてしまうだろう。だったら、見ているだけ。眺めているだけ。それでもいいじゃないか。まだこの想いに名前はない。しいて言うならば、学生時代に経験した、甘酸っぱい恋に似た想いだろう。
 汚れてしまった私にそんな青い時代の感情は、もったいない。

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