二頁

文字数 1,003文字

 そう、夢なのだ。
 夢の話か、そんな店無いのか、と言われても返す言葉が無い。
だが、私はその出来事を鮮明に記憶していた。
 夢ではないのだ。私は確信していた、現実の出来事だと。
夢に見出したのは、40近くになってからだ。それまでは、記憶の底にもなかった。
その店も2度行った記憶が無い。

 私は青春を謳歌し、恋人が出来、就職して結婚して子供ができて。
喧嘩や色んな出来事を何度も乗り越え。
子供を育てて、ようやく手のかからなくなったと安心し。妻と子供3人の5人家族で、35年ローンで買った家で暮らしていた頃の話だ。

 嫁は私の我儘に付き合ってくれて。何とか別れもせずに今まで私を良く支えてくれた。
私は感謝しかなかった。
 子供達が大学に入ったり高校に入ったりと、もうすぐ巣立つのだなと思って、感慨深く自分の人生を考えた時に、この夢を見出した。

 特に気にも留めず、夢なので翌日には忘れる事が多かった。
唯、あッ、あの夢見たなぐらいに、ふと思い出すくらいだった。
 その話を行きつけのスナックで話すと。
店の女の子が、

「良い店ですね。今も、あるんですか?」

と聞かれて。はっ!とした。
 何故か気になりだしたのだ。
う〜ん、行ってみたくなった。
 私は気になると、どうしても調べないと気が済まない性格だった。
だが仕事が忙しく、休みの日も家族や会社の連中と遊んでいたので、何も出来はしなかった。

 子供達が、一人また一人と巣立ち、一番下の娘を残して家にいなくなると。
私の喫茶店探しに火が点いてしまった。
 私は私が通った大学近辺に行ってみた。
まったくと言っていい程、町が変わっていた。ただ、近くのお店屋さんが並ぶ路地には、
ラーメン屋とお好み焼き屋だけは残っていた。

 居酒屋は、何だか知らない居酒屋に代わっていた。夜になって来てみるかな、とも思ったが賑やかな大学生と飲むのはちょっと辛かった。
だから止めておいた。ラーメンは食べてみたら、懐かしさで涙が出た。
 こういうのを何と言うのだろうか懐古主義。確か何かの本で読んだ記憶がある。
年寄が陥るものらしい。

 良く言うだろう、昔は良かったと。
昔より今が良いに決まっているのだが。
その本当の意味はあの頃の自分が良かっただ。女性なら尚の事だろう男も大して代わらない。
 ふと私は、一体何をしているのだろうか?
そんな事が頭を過ぎった。こんな事をしても、仕方が無いような気がしてきた。
 だが私は、再び喫茶店を探した。
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