三頁

文字数 805文字

 記憶の喫茶店は何処にも無かった。
思い出せなかった場所を・・・。
本当に夢では?とすら思いだした。
 だが考えれば考える程、それは現実にあった事だった。
私はそれ程、空想好きではないのだ。
あんなにも沢山の事を憶えているのだから。
あれは実際にあった事の筈なのだ。
 私はそれとなく店の人に、

「あの辺に、喫茶店あったよね」

と聞くと。私とそう歳の変わらない、おばちゃんが。

「この辺は、何度も店が代わってるからねぇ。
私達もここで始めて、20年になるけど。
いつの話だい?」

と聞き返された。考えれば20数年前になる。
 私が大学にいた頃に、既に無くなっている、可能性すらあった。
 私はそれでも、僅かな期待を込めて、街までの道を歩いた。あの日のように。
 すると、突然雨が降り・・・なんて、映画の様な事を空想した。笑みが溢れた。
 これは現実だよ、異次元にある店の話じゃないんだよ。

私は疲れているのかな?と心配になってきた。
 そして、自分が喫茶店探し以外に、何の趣味も特技も?無いことに気が付いた。
これで定年でも迎えて、妻と二人暮らしになったら、さぞかし暇を持て余す事だろうな、と思えた。

 それから私の喫茶店巡りが始まった。
良くあるではないか、場所を変えてやっていると言う事が。私はそれに賭た。
確かに沢山の喫茶店が、この町にはあり。
そして、どこも色んな特徴を持っていた。
だが、ここだと思えるものに出会えなかった。
 私の趣味は、いつしか喫茶店巡りと、家族が思いだし。あそこに、あんな喫茶店があるよと教えてくれたりした。

 娘は就職して家にいて、嫁を助けてくれた。
二人仲良く料理をする姿は、私の心を癒やしてくれた。
 ある人がこう言った。
喫茶店巡りばかりしても、気に入ったものが見付からなければ、作ればどうだ?俺達の年の者は皆思うんだ。
 あんな店が、こんな店があったらなと、
無けりゃ作れば良いんだよ。そう言う年なのさ大人とは、そう言う事なんだよ。
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