二

文字数 2,519文字

 バスケ女子会————もとい、バスケットボール練習の日がやって来た。
空は青く、曇一つもなく晴れている。
私たち姉妹は、一足先に公園に到着した。
運動公園は、緑豊かな、ごく普通の公園。
遊具はほとんどないみたいだけど、運動ができる場所はたくさんある。
「あそこね」
サッカーの場所のとなりが、バスケコートだ。
ちょっとさびちゃってるけど、ちゃんと立ってるし、大丈夫みたい。
私たちはコートに入って、全体をぐるりと見まわした。
「十分広いし、これなら大丈夫そうね」
水月ちゃんが明るくそう言って、借りてきたボールをポンポン、と軽くついた。
そして———シュート!
投げられたボールは、見事にネットをくぐった。
「「「おお~!」」」
さすが、水月ちゃん!
ここからゴールまで、5mくらい離れているのに、一発で決めちゃうなんて、すごい!
私たち妹三人は、パチパチと拍手をした。
「水月、すごいやん!」
「水月姉さん、すごい………!」
佳月ちゃんは感心を通り越して、ちょっと感動しているみたい。
「昔、選手だったんだもの。これくらい、当然よ」
水月ちゃんはそう言ってすましているけど、やっぱりどこか嬉しそう。
「水月ちゃん、バスケをするのが大好きなんだね!」
私がそう言うと、伊月ちゃんはパッと笑って、声を高くした。
「せや、水月。そんなにバスケが好きなんやったら、またバスケしたらええやん。どっかのチームとか入ってさ」
「あっ、いいですね!」
「私もいいと思う!」
バスケの試合で活躍してる水月ちゃん、見てみたいな!
私たち三人は、そう言って盛り上がった。
だけど………水月ちゃんは、表情を曇らせて、冷たい声で言った。
「やらないわよ、バスケなんて」
え? どうしてだろう?
バスケが大好きなはずなのに、どうしてそんなことをいうの?
「えっ、なんでなん? 水月は――――」
伊月ちゃんが問いかけようとした、そのとき。
「おーい、夕月ちゃんたち~!」
三つの人影が近づいてくるのが見えて、バスケの話はそれきりになっちゃった。
「遅れてごめんね~」
のんびり言っているのは、千紗ちゃん。
「伊月ちゃん、私まで誘ってくれて、ありがとー!」
大きく手を振っているのは、杏ちゃん。
そして――――。
「おーい、佳月ちゃーん! 佳月ちゃんのお姉さんたちも、こんにちは。はじめまして!」
ハキハキした喋り方の、髪が長い、ほっそりとした女の子。
彼女が佳月ちゃんのクラスメイト・塩野亜美加ちゃんだ。
「えーっ、三人とも、一緒に来たん?」
伊月ちゃんはおどろいている。
そうだ。三人は、初対面のはずだもんね。
「公園の入り口で会ったから、一緒に来たのよ。「はじめまして~」って言いながらね」
杏ちゃんがそう答えて、千紗ちゃんはうなずいている。
「佳月ちゃんつながりっていうか、四つ子ちゃんつながりで、友達が増えちゃった」
亜美加ちゃんがそんなことを言うから、みんなが笑った。
たしかに、姉妹の友達同士が友達になっていくのって、なんだかすてき。
新しい友達がふえると、うれしい気分になるもんね。
「はじめまして。佳月ちゃんから聞いてると思うけど、私、塩野亜美加です」
自己紹介されて、
「私は水月よ」
「うち、伊月!」
「夕月です」
と、私たちも自己紹介。
すると、亜美加ちゃんは早口で言った。
「私のことは、亜美加じゃなくて、アミって呼んで。私、自分の名前、あんまり好きじゃないんだ」
「えっ、なんで?」
伊月ちゃんが問いかけると、
「だって画数が多いんだもん。テストで名前書くとき、時間かかっちゃう」
「あはは。なるほど。わずかな時間も、無駄にしたくないっちゅーこと?」
「そういうこと!」
アミちゃんは、『趣味と特技が勉強の子だ』って、前に佳月ちゃんから聞いたことがある。
だから私、「クールでまじめな子なのかなぁ」って勝手に想像してたけど…………。
思ってたより、明るくて、面白い子みたい。よかった。
「アミちゃんって、紀美加ちゃんの妹さんよね?」
水月ちゃんがアミちゃんに問いかけると、アミちゃんはうなずいて笑った。
「うん。ええっ、知ってるの?」
おどろくアミちゃんに、ニコッと笑いかける水月ちゃん。
「もちろんよ。だって、紀美加ちゃんとは友達だもの」
「へえ、ミカが言ってたのって、水月さんなんだ!」
「あ、私のことは、水月ちゃんでいいわ」
「ほんと? それなら、そう呼ばせてもらうね、水月ちゃん」
あっという間に、二人は仲良くなっちゃったなぁ。
まあ、紀美加ちゃんの妹だからっていうのもあるんだけど。
水月ちゃんの友達の塩野紀美加ちゃん。
妹がいるって聞いてたけど、まさか亜美加ちゃんだとはなぁ。
「ミカって?」
ああ、たしかに。
伊月ちゃんが聞くと、水月ちゃんとアミちゃんが、同時に答えた。
「ミカっていうのは、アミのお姉ちゃんよ」
「ミカの本当の名前は『紀美加』だから、『ミカ』になったの」
「へえ! アミちゃんとミカちゃんかぁ。なんか、姉妹って感じ出てるわ」
伊月ちゃんがそう言うから、水月ちゃん、アミちゃんは笑った。
「ふふ、そうだね」
って、私も笑って言った。
「さ、そろそろ練習をはじめましょう!」
あ、そっか!
練習するために来たんだもね。
「うん! さっそく…………」
私が言いかけたとき、伊月ちゃんが大きな声で言った。
「ああっ、ちょっと待って! ………うーん、まだ来らへんなぁ」
キョロキョロして、誰かを探してるみたいなんだけど。
「伊月? なにかあるの?」
水月ちゃんが聞くと、伊月ちゃんは首をかしげた。
「おかしいなぁ。場所と時間は、教えたんやけど…………」
なんのことだろう?
あ、そういえば、伊月ちゃん、「当日のお楽しみや!」なんて言ってたけど………。
お楽しみ? なんだろう? なにかあるのかな?
って、不思議に思っていた、そのとき。
「お~い!」
反対方向から、誰かがやってきた。
私たちより年上で、長い髪をおろしているけど…………。
誰かに似ているような? ………って、ああっ!
「ええっ!」
と、水月ちゃんも気付いたようで、声をもらした。
私と佳月ちゃんも、つばをごくりと飲み込んだ。
「遅れて悪いね! 差し入れ買ってたら、遅れちゃった!」
そう言ってニコッと笑ったのは――――…………。
水月ちゃんの大好きなお姉さん、『上島咲来』さんだ!
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