一

文字数 3,201文字

 「ふぁ~あ。う~んっ…………」
私・桜城夕月は、目をこすりながら、のびをした。
右横には、お姉ちゃんの水月ちゃんと、同じくお姉ちゃんの、伊月ちゃん。
左横には、ぐっすりと眠っている、妹の佳月ちゃんがいる。
性格とか、得意なことは違うけど、みんな、私と同じ顔。
そう。私たちは、四つ子の四姉妹なんだ。
「ふぁ~………」
誰かの声が聞こえて、私は体を起こした。
「あっ、水月ちゃん」
一番右にいた長女の水月ちゃんが、体を起こしているところだった。
「あら、夕月。起きてたのね」
「うん。昨日の夜、明日は早く起きなきゃって思ってたら、本当に早く起きちゃった」
私が笑うと、水月ちゃんも小さく微笑んだ。
今日は夏休み。だけど、いつもよりちょっとだけ早起きをした。
何でかっていうと…………。
「今日は、杏ちゃんたちが来るもんね!」
私は元気よくそう言って、カーテンを開けた。
言う通り、今日は、友達が来るんだ。私たちの家に。
「楽しみやな~」
聞きなれた、明るい声。
「伊月ちゃん! おはよう」
次女———私のお姉ちゃんの、伊月ちゃんだ。
「ユヅちゃん、水月、おはよ!」
そう言って笑う伊月ちゃんの笑顔は、太陽よりも眩しい。
「~~…………」
朝に弱い佳月ちゃんは、まだぐっすりと眠っている。
「佳月ったら、起きる様子、まったくさそうね」
「うん」
それにしても、今日は天気がいいな~。
「いくら夏とはいえ、これくらいの暑さはちょっとね…………」
水月ちゃんはため息をついている。
そうだよね。今日は37度。真夏だもん。40度いっちゃうよー。
「は~…………」
佳月ちゃんがなかなか起きないから、私は佳月ちゃんの横に転がった。
「う~ん…………」
あ、水月ちゃん。
水月ちゃんまで、もう一回、寝転んできて。
「えっ。水月とユヅちゃん、もっかい寝るん? そんなら、うちも寝よーっと」
そう言いながら、私の横にごろん、と伊月ちゃんも転がってきた。
「あはは。結局、みんな寝ちゃったね」
考えてること、一緒なのかな。
なんだか、面白い。姉妹がいるって、こんなに楽しいんだなぁ。
私はここに来るまで、ずっと、施設にいたから。
家族がいなかった頃とは、大違い。今のほうが、断然楽しい!
「うーん………ええっ、まだみんな起きてなかったのですか?」
佳月ちゃん、起きた!
「あら。佳月、起きたわね」
「あ、水月姉さん。………ああっ、今日は杏さんたちが来るんでしたっ!」
「そうよ。だから、早起きしてたの」
「ごめんなさい。僕だけ、寝すぎでしたよね…………」
佳月ちゃんが、申し訳なさそうに謝るから、
「ううん、平気だよ!」
笑顔で、そう答えた。
「そうですか。それなら…………よ、よかったです」
今日は、碧くんもくるから、佳月ちゃん、緊張してるのかな。
「さ、起きましょう。朝ごはんは、みんなで食べる予定だから。着替えてね」
水月ちゃんがそう言って、みんなはむくっと起き上がった。
「楽しみだなぁっ」
私がウキウキした気分で言うと、伊月ちゃんが笑った。
「うちも一緒や! なにより、杏ちゃんが来てくれることが楽しみや!」
そっか! 杏ちゃんは、伊月ちゃんと一番仲良しだもんね。
「じゃ、それぞれの部屋で、着替えてきましょ」
水月ちゃんがそう言うのと同時に、私たちは自分の部屋へ戻った。


着替え終わって、みんなが和室に合流した。
「まだかな~?」
私はさっきから、そわそわしてばかりだ。
「もうちょっとよ、きっと————」
水月ちゃんが言いかけたその時。
「伊月ちゃんたち~!」
あっ! 杏ちゃんたちだ!
「おはよう」
そう言って優しく微笑んでいるのは、私の友達の、鳴沢千紗ちゃん。
「千紗ちゃんやっけ? こうやって親しくしゃべるのは、初めてやなぁ」
伊月ちゃんが笑いながら言うと、みんなも笑った。
「あはは。そうかなぁ?」
千紗ちゃんって、ほんとかわいいよなぁ。
「ア…………」
「あ…………」
佳月ちゃんと碧くんは、さっきから黙ってばっかりだ。
お互い、ちょっぴり内気だから、話しかける勇気がないのかな。
「そういえば、今度、球技大会があるわよね?」
水月ちゃんが、その場の雰囲気を作ろうと、一生懸命、頑張ってるみたい。
「ああ、そうや。一年生は、バスケやったな」
「あたし、バスケって得意じゃないんだねよねぇ」
千紗ちゃんがそう言って、ため息をついた。
「わ、私もだよ! この前、バレーは千草さんに教えてもらったけど、バスケはなぁ」
「私も得意じゃないわ」
と、杏ちゃん。
「うちも、得意やないや」
「えっ!? 伊月ちゃんも、苦手なの!?
「うん。うち、運動は得意やけど、チームプレイは苦手やから」
そっか、チームプレイ…………。
伊月ちゃんは、集中すると、まわりが見えなくなるタイプだからねぇ。
「ぼ、僕の友達————あっ、いや、クラスメイトのアミちゃんも、運動は苦手だって言ってました。誰か上手な人に、教えてもらえるといいなって…………」
「うーん…………」
みんなで考え込んでいると、
「そういえば、水月さんは、運動得意だよね。体育で合同になった時は、いつも活躍してるし」
すると、伊月ちゃんが、得意げに胸を張った。
「ふふーん。せやで。水月はな、小学校のころ、ミニバスケットボールの選手をしてん」
「いや、なんであんたが得意げなのよ」
と、水月ちゃんはあきれたようにツッコんでいる。
そうだ、水月ちゃんは、バスケットボールの選手だったんだ。
私は、体を前にして言った。
「わ、私たち、心配で………。この前と同じように、教えてくれないっ?」
「………えっ?」
水月ちゃんは、目をパチパチしている。
そこですかさず、伊月ちゃんがニパッと笑って言った。
「水月、教えてや! バスケ、みんなに!」
「ええっ………!?
急なことに、水月ちゃんはびっくりしてるみたい。
だけど、バスケ経験者の水月ちゃんが教えてくれたら、すっごく頼もしいよ。
そう思って、私も頼んでみた。
「お願い、水月ちゃん。私、今までバスケをまともにできたことがなくて…………いつもみんなに迷惑かけちゃうの、イヤだなって思ってたの」
『あたしも』 『僕も』と言いたげに、千紗ちゃんと佳月ちゃんもうなずいている。
「私もよ。運動は得意だけど、バスケなんて、やったことないわ」
杏ちゃんまで言ってくれた。
「水月ちゃんがバスケを教えてくれたら、心強いんだけど…………」
「うーん、そうねぇ………」
水月ちゃんは、しばらく迷ったあとに、にっこり微笑んでうなずいた。
「いいわ。うまくできるか分からないけど、それでもいいなら教えてあげる」
そんな言葉を聞いて、私たちはみんな笑顔になった。
「ありがとう、水月ちゃん!」
「だけど、場所はどうするの? 学校の体育館は、体育の授業以外は使わせてくれないでしょ? ボールだって…………」
眉を寄せて悩む水月ちゃんに、千紗ちゃんが明るく笑っていった。
「それだったら、市の運動公園がおすすめだよ~。屋外だけど、バスケのゴールもあるし、ボールも借りれるから」
「ちょうどええやん!」
ピョンピョンと嬉しそうにはしゃぎだして、早口になる。
「日にちは次の土日のどっちかでええ? 佳月ちゃんはミカちゃんに予定聞いといてくれる?
友達みーんな集めて、練習会! いや、女子会! みんなでバスケ女子会や!」
早速はしゃぎ出した伊月ちゃんに、私と千紗ちゃんは「あははっ」と笑いあった。
水月ちゃんも佳月ちゃんも、杏ちゃんも。みんな、笑みを浮かべている。
とてもにぎやかな練習会になりそうだ。
水月ちゃんに教えてもらって、少しでもバスケができるようになるといいなぁ。
自信はあまりないけど、せいいっぱい頑張ろう!
気持ちを引き締めた、そのとき。
「あっ、そうや!」
伊月ちゃんが、『ひらめいた』というように叫んだ。
「どうしたの、伊月?」
水月ちゃんが不思議そうにする顔を、伊月ちゃんはちらりと見て。
「………ううん、なんでもないっ。サプライズにしよ。女子会当日のお楽しみや!」
そう言って、楽しそうに笑った。
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