第17話 完結

文字数 789文字

 もしかしてと思いドアを開けると、そこにはあの日以来のミーナがいた。玄関に転がっていたはずの白いハイヒールは、ヒールを折られて無残にもゴミ箱に捨てられている。ミーナは満面の笑みを浮かべながら渋谷のスマホを向けた。そこにはみな美とのツーショットが映し出されていた。
「彼女、死んだらしいわね。これであなたは私のもの。一生離れないから」
 ミーナは薄ら笑いを浮かべていた。
 その瞬間、天啓が降りたかのようにすべてがつながって、確信を得た。彼女は黙ったままで灰色の瞳をギラつかせている。

「まさか……君がみな美を突き落としたのか。

(あさみ)」
「その呼び方は止めてと言ったでしょう? 私は

(みなかわ)

よ。女子アナの水卜(みうら)麻美じゃないわ。これまで通りミーナと呼んで。ミトちゃんミトちゃんと呼ばれる度に私が苛立つのを知っているくせに」
 全貌(ぜんぼう)を悟った渋谷は茫然(ぼうぜん)と立ち尽くすしかなかった。
 やはり渋谷が信じていた通り、みな美は自殺では無かったのだ。
 おそらく皆川麻美は渋谷の裏切りを許せなかったに違いない。クリスマス前後に家出をしていた間に、みな美との関係を調べたのだろう。だから家出から帰ってきてから麻美の印象が変わり、渋谷を捨てるように部屋を出ていった。その時、留守録を残した相手こそがみな美であった。その結果としてよりを戻し、麻美の代わりに本命となったみな美との同棲を始めたのだが、麻美は決して渋谷の事を諦めてはいなかった。
 大倉みな美の命を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた事実に今、初めて気づかされた次第である。
 目の前が真っ暗となり、そこで記憶が途切れた。
 
 しばらくの時が流れ、気が付くと麻美の胸部に包丁が突き刺さっていた。血まみれの彼女をガラス色の目で見下ろし、何の言葉も出なかった。

 胸の奥には、あの日に聴いたショパンが流れていた……。
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