文字数 1,278文字

「どどどどど、どうしたんだい? リスくん!」

 グレイはあわててリスくんのうでをつかみます。小さな手のひらは、右も左もまっかっかです。

「どこかけがをしてるのかい!?」

 あわてふためくグレイをじっと見つめていたリスくんは、ぷっとふきだしました。そのままおなかをかかえ、声を上げて笑い始めてしまいました。おなかのまっしろな毛まで赤くそまってしまいます。

「え? どうしたっていうんだい?」

 グレイにはわけがわかりません。

「ごめんごめん! グレイがあんまりよく()てたからさ、ちょっといたずらをしちゃったんだよ。ごめんね、だけど……」

 そこまで言うと、リスくんはまた大笑いです。

「そんな(かお)で、あは……あはは」
(かお)?」

 グレイは(かがみ)のようにぴかぴかの「どんぐり池」に、自分の(かお)(うつ)してみました。
 するとそこには、目と口のまわり、それとほっぺたに、赤いお化粧をした自分の(かお)(うつ)っているのでした。
 ふりかえると、リスくんのまわりには黒いヤマゴボウの実がたくさん転がっています。実のまわりには、まっ赤な汁が……。

「こいつめぇ……」

 うつむいたグレイが、ふるえながら言いました。

「ご、ごめんねグレイ。おこちゃった……?」

 リスくんが笑いをひっこめて、心配そうな声でたずねます。

「おこったぞう! がおう!」

 グレイはきゅうに大きな声を出すと、りょうてを頭の上にひろげました。
 まるでおゆうぎをするようなわざとらしい動きに、リスくんはほっとひと安心です。

「きゃあ! グレイがおこったぁ!」

 と笑いながらさけんで、池のまわりをちょこちょこと走り出しました。
 グレイは目と口をカッと開いて「がおぉぉう!」とうなり声を上げながらリスくんを追いかけます。
 二人はそのまま、池のほとりでおいかけっこをしてあそびだしました。

 ピュルリリリリリリリ ピュルリリリリリリリリリ ヒヒヒヒヒヒヒ

 どんぐり池の上から甲高(かんだか)()き声が聞こえました。

「あ! コマドリさんだ!」
 
 リスくんは立ち止まり空を見上げましたが、コマドリさんの姿(すがた)は見えませんでした。
 つられてグレイも空を見上げます。
 コマドリさんの声はしばらく続いていましたが、そのうち聞こえなくなり、あたりはしいんと(しず)かになりました。

「あれえ? おかしいなあ。いつもなら池におりてくるのに」

 リスくんはふしぎがおです。

「じゃあリスくん。オレもそろそろ、帰ることにするよ」

 空を見上げていたグレイが言いました。

「ええ? もう帰っちゃうの?」
「ああ、あした、また来てもいいかい?」
「ホントに? もちろんだよ。またあそぼうね」
「ホントか? あしたも、あさっても、あそびにきてもいいか?」

 リスくんの顔に笑顔がもどります。

「いつでも来てよ! ボク、待ってるね」

 ふたりは手をふって別れたのでした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
  • どんぐり池

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 根っこ広場

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • オンボロ橋

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 逆さ虹の森

  • 1
  • 2
  • 3
  • 4

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み