文字数 2,216文字

 とつぜん地面(ぢめん)から()び出してきた根っこに(つか)まり、どっちが上でどっちがしたかもわからないほどリスくんはふり回されてしまいました。そのあと、土の中に引きずり()まれたと思ったら、最後(さいご)にドスンとどこかに()っことされました。

 おしりを打ったリスくんは「いたいっ!」と、ひめいを上げます。

 口の中に土が入ってきて、まずいったらありません。

「だいじょうぶかい?」

 先に地下迷路(ちかめいろ)に落とされていたグレイがかけよってきてくれます。

「みんなどこにいるんだろう……」

 まっくらな地下の迷路です。みんなのいる場所どころか、どこへ行けば森の中へと(もど)ることができるのかすらわかりません。

「おおーい、だれかいないかあ?」

 リスくんがありったけの大きな声を出しましたが、どこからも返事(へんじ)はありません。

 グレイがオオォォォォーーン! と吠えましたが、やはりあたりは(しず)まり返っています。

 二匹とも必死(ひっし)で耳をピクピクさせました。

「あ!」
「聞こえた?」

 二匹は顔を見合わせてうなずき合いました。

 どこかから、だれかの泣いている声が聞こえてきたのです。

 リスくんとグレイは、声のする方へ向かって歩き出しました。

 泣き声はどんどん大きくなり、すぐに大きなくまさんがわんわん泣いているところにたどり着きました。

 よく見るとくまさんのまわりにはキツネさんにアライグマくん、それからヘビくんもいます。

「みんな! まだ(とお)くに行ってなくてよかったよ!」

 リスくんがかけよると、くまさんの泣き声がピタリと止まりました。

「り……リスくん? 来てくれたの?」
「うん、グレイもいっしょだよ」

 グレイは(かべ)(かげ)から様子をうかがっていましたが、ゆっくりとみんなの前に出てきました。

「オオカミ!」

 くまさんはとびあがり、ヘビくんはアライグマくんのからだに巻き付き、アライグマくんは「こっちに来るんじゃねえよ!」とどなりました。

「みんな! グレイはみんなを(たす)けるために、ここまで来てくれたんだよ! みんなはグレイのことなんてこれっぽっちも知らないくせに、なんでそんなイジワルなのさ」

 とリスくんが言いました。

 アライグマくんは

「なんだと? オオカミ山のオオカミが、あっちこっちで(あば)れまわった話は、ここにいるみんな、知ってるんだぞ? そいつがいいこと言ったって、オオカミってのは(むれ)行動(こうどう)するっていうじゃないか」

 と、はんろんします。

 リスくんだって、()けてはいません。

「あのときの乱暴者(らんぼうもの)のリーダーは、もう()んじゃったんだよ。それに、オオカミ山にはもうグレイしか住んでないんだよ」
「なんだって?」

 リスくんの言葉(ことば)に、アライグマくんがひるみました。

「ほんとうかなあ?」

 アライグマくんのからだに巻き付いたヘビくんがグレイの方へ首をもたげ、チロチロと舌を出したりひっこめたりしています。

 首をユラユラゆらめかせながら、グレイを(たし)かめているみたいです。

「ほんとうさ。新しいリーダーはオオカミ山をすてて、べつの場所(ばしょ)へと(たび)に出た。オレはひとりであの山に残ったんだ。オレに命令するリーダーはいないし、オレはできればアンタたちと仲良(なかよ)くしたいと思っている」
「フン」

 ヘビくんは(はな)をならしました。

「なあ、アライグマくん、オレはもうおなかがペコペコで死んじまいそうだぜ。オオカミのヤツもこう言ってることだし、ここはこの場所(ばしょ)から出ることを一番(いちばん)(かんが)えようぜ」

 ヘビくんはチロチロと(した)を出しながら、こんどはアライグマくんの方へ(あたま)をゆらりと向けました。

 アライグマくんは(うで)を組んでしばらく考えていましたが、ふいに小さな声でいいました。

「おいオオカミ、オマエ、なんかいい方法考えつくのかよ?」

 アライグマくんのしつもんに、グレイは「ああ」と、力強(ちからづよ)くうなずきました。

「いいか? 迷路(めいろ)ってのはたいがい片方の手を(かべ)につけたまま歩いていけば、いつかはゴールに辿り着くもんだ」

 いっしゅん、とっても静かになりました。くまさんですら、鼻をすするのを忘れています。

「ちょっと待ってくださいません?」

 最初に話しだしたのはキツネさんです。

「たしかにやみくもに(うご)き回るよりいいかもしれませんが、同じ場所(ばしょ)をぐるぐる回ってしまうってことはないかしら?」
「たしかに、その可能性(かのうせい)がないとは言えない。だから、(かべ)に傷をつけながら歩いたらどうだろうか? それで同じところを回っているようだったら。はんたいがわの壁をつたっていけばいいだろう?」

 どうする?

 そう問いかけるように、グレイはみんなの顔を見渡(みわた)しました。

「よし!」

 アライグマくんは腕組(うでぐ)みをとくと、足元に転がっていた先っぽのとがった石を(ひろ)い上げました。

「オレサマが、この石で、(かべ)(せん)を書きながら歩いてやるよ。みんな、暗くても見落とすんじゃないぞ」
「だいじょうぶですわ。私こう見えても、暗いところは得意(とくい)なんですのよ」
「オレも暗闇(くらやみ)は得意だ」
「アタシも、暗くても平気」

 どうやら、キツネさんもグレイもくまさんも暗くてもへっちゃらのようです。

「ううーん。オレはあんまり自信がないぜ」

 ヘビくんはアライグマくんに巻き付いたまま言いました。

「実はボクも、真っ暗なのは得意じゃないなあ」

 リスくんが言うと、グレイがリスくんの前に手を出してくれたので、リスくんはたたたたっと、グレイの(かた)に、(のぼ)りました。

「よし、じゃあ行くぞ。みんなちゃんとついてこいよ!」

 アライグマくんを先頭(せんとう)に、森の仲間たちは、真っ暗な地下の迷路(めいろ)を歩き始めました。
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