第2話

文字数 728文字

僕は過去に、10回を越える転居をしている。
記憶にあるだけでも。
最初は親の離婚・再婚による、より広い、子供部屋もある家への希望に満ち溢れた引っ越しだった。
極貧からの脱出。
暴力親父からの脱出。
そして、引け目だらけのふるさとからの脱出。
同じ市内だったけれども、端と端。
それから高校を中退してだったり、駆け落ちだったり、女と別れたり寄りを戻したり、金がなく、寮に入ったりそこを追われたり。
元妻に拾われて同棲、結婚して元妻の実家へ。
中学・高校時代の親友と「僕らは切り売りされる花に育てられるんじゃなく、自分で根を張る雑草になるんだ」と語った想いはどこへやら、すっかり寝無し草。
いい加減だった。
人の評価ばかり気にしていた。
流れに乗ろうとばかりして、うまく乗れずに怨み言。
それで、元妻に拾われた時、そして、ふたりの子供が出来た時、張り切り過ぎてしまった。
死んでいく僕ら。
生きていく子供たち。
遠くの島、家族、平和。
今に見ろ、理想を叶えてやる。
それで見つけたこの村、この住宅。
この人の少ない不便さの中だからこそ、自己肯定感を持ち得るんじゃないだろうか?
僕には終着駅だった。
払い下げまで住み続けて、一度は村を出た子供たちも帰って来れる。
そんな、あたらしい僕の家族の礎。
たしかにそれを危うくしたのは自分だったけれど、とどめは家族だと思っていたものたちから刺された。
やむを得ない事情、稼げない自分。
いつしか僕は、力なくただ夢見て、果てしなく遠ざかる夢を見て、故に日銭をただただ追いかけまわすだけの日々を送っていた。
最後の数年間。
それでも、死体は子供たちの肥やしになる様に、と。
そんな日々の残像を振り払いながらの終わりの見えない、しかし期日に追われる作業は、僕の精神を壊して行った。
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