第3話

文字数 640文字

君に金銭的迷惑を掛けてしまうかもしれない。
いや、君には既に掛けているから、君の親に。
この住宅の保証人は、君の父親だ。 
迷惑なんて掛けるつもりはないから、軽い気持ちでお願いしたし、あちらも迷惑かけられるなんて思わず、軽い気持ちで承諾しただろう。
僕は知っていた。
君は、親に迷惑を掛ける事を病的に嫌う。
そうでなければ、事態はもっとゆるやかに進転しただろう。
最初君は、僕を悪く思われたくないからと言った。
違うよ。
自分の子供にはなんでもしてやりたい。
その気持ちと、それは対を成す。
いい子で居たいんだよ。
いつでも優等生で。 
だから、僕に対しては不良だ。
なぜだか僕に「だけ」はそうじゃない。
それを僕は、スペシャリテとして解釈する様努めた。
けれど、違った。
君は、僕以外のどこでも卒なく優等生を演じる為に、僕を利用し、僕との情愛を隠す。
付き合い切れないよ。
だから、君がかけて欲しくない迷惑をこそ、掛けてやろうと思った。
しかし、どうだ。
僕は、君が悩み、苦しんでいると思うと、足が一歩も前に出ない。
鬱々として、どんより重い。
これが、愛ではないのか?
君は違うと言うけど。
少なくとも、僕が引っ越し作業に追われてる間、君は自分の事ばかりだった。
言い訳。
わかるよね。
そこまで知性がないとは、思いたくないよ。
で、僕は、君がしたたくさんの苦々しい表情の残像を振り払う為に、重たい足を引きずる。
君が、その僕に向ける嫌悪で、悩みや苦しみを軽く出来る事を知りながら。
やっぱりどんなに頑張っても、僕にはそんな事は出来ない。
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