第1話 幼馴染からのチョコレイト

文字数 862文字

 「……大好きだよ」

 バレンタインデー。
 2人きりの教室。

 頬を染めながら、俺にチョコレートをくれる。
 俺の幼馴染。

 外はまだ雪がチラついてて
 遠くの玄関で叫んでる誰かの声が邪魔に耳に入ってくる。

「……ありがとう」

 幼い頃から、見てきた顔なのに
 まるで別人みたいに見えて
 俺の心臓が五月蝿く高鳴った。

「ん!」

「あ、どうも」

 食べて終わるだけのお菓子なのに
 宝石のようにラッピングされているチョコレート。
 眺めるだけと、もらうのではこんなにも価値観が変わるんだと俺は知った。

 お互いの気持ちには
 なんとなく気付いてはいたけれど
 その壁を破っていいのか……迷っていて
 それを今日、彼女の方から破ってくれたんだ。

「なつみ」

 俺は、幼馴染……もう幼馴染じゃない
 俺の恋人の腕を掴んで引き寄せた。

「! ちょ……」

「……なに……?」

「……なんにも」

 なつみは驚きながらも、俺が抱き締めると
 そのまま抱き締め返してくれる。

 じんわりと、あたたかい柔らかい――。
 幸福感だ。

 放課後の教室に光が差す。
 天国のように思えた。

 なつみが、少し上を向く。
 恥じらうような可愛い仕草に、目眩がする。

 その目眩のままに
 俺はなつみに口づけた。

 ふわり……と柔らかい唇。

 もっともっと、もっと早く
 抱きしめ合えば良かった。

 こんなにも幸福な事があるなんて。

「……初めて……だよね?」

「当たり前だろ……」

 安心したように、また微笑む。
 俺達はまたキスをした。

 生まれた時から、ずっと傍にいて
 君だけを見てきたよ。

「好きだよ、なつみ……」

「うん……」

「愛してる」

「ふふ、うん私も愛してる」

 愛なんて、重い言葉に
 なつみは少し驚いたようだけど、嬉しそうにまた俺を
 抱きしめてくれた。

 さーっと教室に差していた光が陰っていく。


 これをもう、何度繰り返しているだろう

 あと3分後に
 君は死んでしまう。

 地獄の始まり。

 今度こそ
 俺は君を救う。
 そのために売った魂だ。
 君を救って塵と消える、今度こそ――。

 嘘をついてごめんね。
 キスはもう、810回目だったんだ。


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登場人物紹介

祭(さい) 本作主人公 男子高校生 17歳

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