最終話 ウィンキサンダ

文字数 872文字

 
 2月15日。夜の闇。
 俺はグラウンドに立っている。

 悪夢のバレンタインデーから、日にちは変わっていた。
 腐った血反吐の臭いのなか、チョコの匂いがしたような気がして懐かしく感じる。

 ヨロコビの存在は……消えた……。

 不思議な事に、俺の千切れた身体は治癒している。

 祭と呼ばれた気がした。
 あぁ……聞こえるのは、なつみの泣き声か。

 ……俺の幼馴染……。
 ……俺の、恋人……。



 でも涙溢れる瞳で今見えるのは、半分崩れかけているウィンキサンダだ……。
 俺は聖剣を投げ捨て
 ウィンキサンダに駆け寄り座り込む。

「……悲願が……達成したな……(さい)…………」

「あぁ……さぁ、この魂をお前にやる」

 そういう約束だ。
 契約だ。

「ふふふふ、ははははは」

「何を笑っている」

 今までで1番愉快そうな、悪魔の笑いだった。

「塵になるのは、俺の方なのだよ……

 契約は、俺が満了したのだ」

「何を言っている?」

 わかっているだろう? というような顔をする。

「お前のいつかの前世……聖女クシャナーディア様は
 俺のために闇堕ちしたのだ……
 あのヨロコビに殺されかけた俺を救うために……闇魔法に手を染めた……」

 半分はもちろんわかっていた。
 過去に何があったか、あの時に見えたから。

 でも最初に俺を助けたのは、お前だったろう……?

「……ウィン……」

「このループは、全ての俺の力を使った祭壇だ

 聖女様が、悲願を討つための。

 何世紀にも渡って……力を貯め……ぐ……」

 吐いた血が俺にかかる。

「……ウィンキサンダ……」

「……愛していたんだ……

 お前なんかじゃあ、ない……

 あの時のあの、聖女様を……あれは……俺だけの……」

「あぁ」

「……あぁ……せい……さ……」

 ウィンキサンダには、俺がその日の聖女に見えているのだろうか。
 伸ばしてきた千切れた腕を掴む。

 俺の涙がウィンキサンダの頬に垂れると、ジュウっと焼け堕ちていく……。

 太陽に照らされ、
 ウィンキサンダは塵となり消えていった。

 

 夜明けが来る

 夜が、明ける――。




 ループ・グッド・バイ
 闇堕ち転生聖女は悪魔と共に聖剣を振るう
 ~完~

 
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登場人物紹介

祭(さい) 本作主人公 男子高校生 17歳

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