第5話 クシャナーディア

文字数 1,542文字

 

 何が起きただろうか、俺は
 何度となく闘ったさ。

 剣を振るった。
 それが、全て叶わない。

 死なない事で精一杯だ。

 俺は転がる。

 子供が喜んで、無邪気に蝶の羽、触覚、足を千切るように
 やられてしまう……。

 ヒュー……ヒュー……。

 もう、虫の息だ。

 何も一撃もできないで、ループもできず……
 このまま、息絶えるのか……。

 俺の血は飛散し、ヨロコビの周りを
 白い空間に、紅色を落としていく。

 なんの役にも立たない、ウィンキサンダは崩れた身体を引きずり
 グルグルと何か動めいてるだけだ。
 あいつも死にかけている。

 ゆら~~り、ゆら~~り、と動くヨロコビ。
 地上でも動いているのだろうか。

 校舎の方へ動けば、なつみが……!!

「おおおおおおおお!!」

 俺にとって1番の攻撃詠唱を唱え、内臓をこぼしながらヨロコビに
 斬りつけたが……。

「ひぎゃぷる」

 奇妙な声だけで、俺はふっ飛ばされた。
 天井など、無い空間。

 すごい高さに宙を舞う。

 このまま地面に叩きつけられて俺は死ぬだろう。
 助けろウィンキサンダ!!

 しかしウィンキサンダはまだズルズルと身体を引きずっていた。

 なんという無能だ!
 役立たずめが!
 ふざけるな!!
 
 俺は今までのループで
 ウィンキサンダに散々と言われてきた言葉と時間を思い出す。

 しかし、見えたのだ。
 上空から、
 俺の血と己の血を使い、ウィンキサンダが書き上げたヨロコビを囲む魔法陣が。

 目は血で滲み見えるはずもない、
 しかし確かに、ウィンキサンダと

 目が、合った――。


「クシャナーディア様ぁあああああ!!」

 ウィンキサンダが誰かの名を呼んだ。
 いつかの聖女の俺の名か。

「今こそ!
 あなた様の故郷を食いつぶし!
 私の肉体を引きちぎったこの、膨大な闇を処刑するのです――!!」

 瞬間、俺とウィンキサンダの口から同じ詠唱が込み上げた。

 吐き気にも似た、慟哭と共に。

 闇魔法。

 闇堕ち聖女の闇魔法だ。


「オージバフマクーン・アテューン・バジリオ
 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ
 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ
 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ」

「オージバフマクーン・アテューン・バジリオ
 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ
 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ
 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ」

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 流れ出す、呪文。

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 ゴブゴブと俺の口からも血が溢れ出す。

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 オージバフマクーン・アテューン・バジリオ

 瞳からも血が溢れ
 ウィンキサンダは、ドロドロと溶けていく。

 それを、棒立ちで眺めているヨロコビ……。

 ゆらり、と動く。

「オージバフマクーン・アテューン・バジリオォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 叫んだ瞬間に、ヨロコビの身体の内部から
 一気に悪魔の腕が生まれるように湧いて出た。

 あれは、ウィンキサンダが過去に食いちぎられた身体だ。
 再生できるはずの悪魔が治癒せずいたのはこのためか……!!

「祭!!!!! やれぇえええ!!!」

 聖剣『祝福の愛(ウェディング・ベル)』を俺は構える。
 皮肉過ぎる、その名前。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 一気に下降し
 ヨロコビに斬り込み、一閃……!!


 倒錯する
 過去が今が未来が
 収縮し一気に膨張する――!!!!!



 ……。

 …………。


 花びらのように……散らばる……闇……。
 花びらのように……散らばる……光……。

 垣間見えて
 俺は全てを知った。



 
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登場人物紹介

祭(さい) 本作主人公 男子高校生 17歳

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