第2話 1

文字数 969文字


大学時代、華丸に協力してもらい入居者以外立入禁止の学生寮に忍び込んだことがある。

この頃、俺はアパートに独り暮らしでバイト三昧の生活をしていて、成績は首の皮一枚で繋がっている状態だった。その為たった一度の欠席も課題の提出遅延も命取りだったのだが、うっかり出されていたレポート課題を忘れており気づいた時には締め切りが翌日の朝に迫っていた。

家までの往復の時間も惜しかった俺は、当時唯一寮生で知り合いだった華丸に頭を下げ、部屋で泊まり込みの作業をさせてもらえるよう頼み込んだのだ。

その時も華丸は自分の部屋に俺を入れることを相当渋ったのだが、俺の必死さを哀れんでくれたのか最終的には折れて、他の入居者や宿直の目を盗んで寮に侵入する手筈を整え俺を迎え入れてくれた。

初めて入った華丸の部屋は、その散らかりようがそれまでの華丸の神経質なイメージからあまりにもかけはなれていた。さすがの俺もそれには内心ちょっと引いてしまったのだが、一応人一人が歩ける道とパソコンだけが置かれた机を用意してくれていたので、華丸なりに俺の急な来訪に備えてくれたのだろうと思う。

さらに課題の最中も、俺が寝そうになっていると丸めた雑誌で頭を思い切り叩いて起こしてくれたり夜食にカップ麺を用意してくれたりと、何だかんだ言いつつ華丸は全面的に俺をサポートし、結局そのまま俺がレポートを完成させるまで一晩中眠らずに付き合ってくれたのである。

挙げ句の果てに、

「はせに連絡しといたから、一限隣に座って講義受けろよ。お前が寝てたら叩き起こすように言ってあるから。」

と、徹夜明けの講義の監督者まで手配をしてくれるその細やかさには、感服を通り越してもはや苦笑いしか出なかった。

しかし、朝一の講義開始ギリギリの時間になりいそいそと登校準備を整える俺の横で、華丸は大きなあくびをして布団に潜り込んでしまった。この時華丸も同じく一限に別講義をとっていたので、俺は当然おいおい、とその背中に苦言を呈した。

すると、華丸は蓑虫みたいに布団を体に巻きつけながらこちらを向き、不機嫌な表情で瞼を閉じながら、


「僕はサボる。単位余裕だし。」


なんて皮肉って、数秒後には寝息をたて始めたのだ。


これが、俺の中ではあくまで「長谷見の幼馴染み」という認識だった華丸良一が、「俺の友達」に変わったありし日の思い出である。




駄々2





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