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文字数 2,208文字

朝早くに起きて自分の準備を大体終えたロアージは暇になって背伸びをした、周りの友人たちは特に気にもせずに自分の事に目を向けており、つまんなくなり始めたロアージは誰かにちょっかいを出そうと思いついた。二段ベットの下の段で丸くなって寝ている少女を横目に一瞥し、隣で着替えをしているヴェンデに近づいて声をかけた。
「なぁ、起こしてあげたほうがいいかな」ロアージは少女の方に視線を向け、ヴェンデが振り向いたところで指で曖昧にジェスチャーをする。昨日部屋で挨拶をした時の印象として、あの少女はあまり人と話すことが好きではないと感じていた。何かしてやろうかとは思ったものの、やるとなるとどこまで受け入れてくれるかが問題だ。
「別にいいんじゃね、ほっとけば」ヴェンデは興味なしに自分の上着を取った。ヴェンデにとってもまだ彼女はどういう人でもなくわざわざ何かしようという気持ちもないのだろう。向けていた視線を自分の運動着に戻すと話は終わったとばかりに着替えに戻ってしまった。
手持ち無沙汰になりロアージはどうしようかと顔をあげ、その様子を起きたばかりのミルビィが見ていることに気がついた。
「昨日彼女、なかなか眠れなかったみたいだから...」と突然ミルビィが会話に加わった事でヴェンデもミルビィの方に向き、2人に見つめられたミルビィは怯んで「だからその...」と口籠ってしまう。
「起こしてあげたほうが、いいんじゃないかな」
不安そうに段々と小さくなっていく声にヴェンデが面倒そうにわかったという顔をした、そして近くにあった水筒を手に持つと少女へめがけて軽く投げた。
「ほら起きろ"名無し"!」
水筒はまっすぐ少女の頭に向かって飛びコンッ、と見事に当たり「ん゛...」と呻き声をあげさせて少女の身を縮こめた。
「ヴェンデ!」
物を投げるのはやりすぎだと思ったロアージはとっさにヴェンデの方へ向く、だが振り向くよりも早くヴェンデはさっと顔を背けそっぽへと向いてしまった。
頭に物がぶつかった衝撃からか少女は毛布の中で小さく蠢き、また衝撃がくるのを警戒して身を固めて丸くなっている。
「大丈夫か?」ロアージはベッドの柱を掴んで少女を覗き込む。酷い当たり方はしていなかったように見えたが、軽いもののしっかりと硬い水筒を頭にぶつけられたら痛いだろう。
様子を伺っていると急に少女は体を少し上げ、決してこちらへ顔は向けずに目線だけを動かし、自分を覗き込む人物がいることを確認した。
若干腕が疲れるような姿勢でじっと固まり、何をしているのかロアージが観察していると体勢を直して上半身をあげ、その拍子に毛布が捲れて長い髪の毛と小柄な体が出てきた。芯が細いため服がはだけて内側の肉に骨が浮いているのが見え、落ち葉色の纏まりのない髪が埃を絡めとっている。少女は怒っているようで少し俯き気味な顔に下を見つめて目を合わせようともしない。お互い黙っていると後ろでヴェンデが着替え終わったようで、ミルビィに向かって「行こうぜ」と声をかけた。
ミルビィは先ほどから部屋で起きていることに注力していて着替えがまだ済んでおらず、声に気付いて慌ててズボンを脱ぎ自分の運動着を着始め、それを見てヴェンデは仕方ないといった様子で扉付近の壁に背をつけポッケに両手を入れてミルビィの着替えが終わるのを待つことにした。
ロアージと少女は向かい合ってぴりついているともいえないなんとも形容しがたい空気をつくっている、ロアージは初日の少女の態度もあって彼女がサイボーグなのではないかと疑っていたが、唇を少し締め不服そうに俯いている彼女に人間らしさを覚え妙な安心感を感じていた。目の前の少女は俯いたままで怒っているのだとは思ったものの少女の知らない一面を知ることができたことは素直に嬉しい気持ちだった。
傍から見ていたヴェンデは噛み合っていない2人の意識のずれを面白く眺めており、どちらが先に動くのかと見ていた所、いつの間にか着替えを終えたミルビィがヴェンデの元へやってきた。ごめんねと声をかけられヴェンデは気にした様子もなくいいよと返す。
ドアの開いた音が聞こえてロアージは振り返った。ヴェンデが外に出て行ってミルビィがこちらに向いて先に行くよとジェスチャーを行い、ロアージもそれに反応を返す。ドアの外から手が伸びてきてミルビィの腕を掴むと引っ張るように部屋の外へとミルビィを連れて行った。
時間もあるからそろそろ自分も行こうと少女の方へ向きなおす、すると少女も虚ろな目でロアージの事を見ており髪の間から見える彼女の青い瞳に映る自分が見えた。目線を引いて、どこか同年代よりも幼く感じる少女の風貌は家にいる妹達の姿を思い出させた。今だとちょうどこのくらいの背丈だろう。
はっ、と今の状況を思い出し笑顔で少女を見た。
「頭はもう大丈夫か?おはよう!」
少女はあからさまに煩わしいといった表情をし、それを見てロアージは変に嬉しくなり笑みが自然とこぼれた。
「もうそろそろ集合時間になるから早く着替えたほうがいいぞ」
少女は頭を横に背けてしまった。聞こえてはいるだろうが、少女から今は会話をしたくないという意思を感じ、とりあえずもう行くことにして立ち上がる。
扉の近くまで行ったところで振り返り出発のジェスチャーを少女に向かって行った、少女は俯いたままで顔をあげてはいなかった。早く来いよと少女に言って部屋の外へと出た。
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