3,

文字数 1,024文字

辺りがしん...と静まり、嵐の過ぎ去った後のような感覚を全身に感じた。頭を少し揺らすとじん...と痛みがやってきて少し目を細める。嫌な思い出がふっと湧いて出てくる、大きい体、衝撃、後からわかる痛み、少し動悸がする。胸を押さえようとした手が震えている。
『ねぇ』
目の前に袋が置いてあり中で猫が蠢いて尻尾を揺らしている。私は胸を押さえながらゆっくりと呼吸をすることを意識した。吐いた息の3分の1、いや5分の1?がまた私の肺に戻ろうとする。
『そろそろ着替えないと』
呼吸に集中し目の前でゆらゆらと揺れる尻尾を目で追う。ここでこうしている間にも尻尾はちゃくちゃくと時間を刻み続ける。
『遅れたいならもう言わないよ』いつも私に意地悪をしようとする。肺に向かおうとする酸素の一部を脳に向かわせばらばらの言葉を繋ぎ合わせる。
「少しくらい、相手のことを考えて、話せない?」
『いつもそうしてるよ、いまは?』
尻尾の動きを止める。袋猫は私のことを見抜こうとしているようで気が立ちそうになるが言ってることが分からないわけでもない、無駄な問答に潰される時間のことが頭に浮かび、息を吸い、今からやると呟く。
ベッドの上から体を起こし、自分のバッグから薬を取り出して洗面所へと向かった。入り口で壁にもたれかかったがそんなに今は酷いわけでもない、洗面所にコップが置いていないか確認したが、見あたらなかったから蛇口に手をかざして水を溜め口へと運んだ。口をゆすいで水を吐き出し、顔をあげると鏡に映る女と目が合った。彼女はまるで敵を見つけたような目で私を見ている、そしてその瞳には怯えた顔。
排水溝を覗く、気がつくと顔を下に向けていた。水が穴の奥に吸い込まれ続けていく音にこうしていてはいけないと現実が戻ろうとする。
私は薬の入った瓶を掴み、中から思いっきり、と考えだけ先行したが冷静に一錠だけだして口に放り込み、蛇口に直接口をつけて水ごと胃に流し込んだ。
ウクッと喉から込みあがってくるものをだした、ついでにと飲んだ水も上がってくるが抑え込み、洗面所から出てベットの上に腰を落ちつけた。
自分が落ち着くのを感じるまですこしぼーっとする。机の上に置いてある時計を見ると時間にもう余裕がない。焦りが背筋から込みあがってくる、毎日同じ繰り返しという訳ではなく昨日は新しい環境に落ち着かず飲むタイミングを逃していたのだ、と誰にするでもない言い訳が思いつきそんなこと考えるならと自分の運動着を探して手に取った。
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