第2話

文字数 772文字


 大和川の踏み固められた土堤を夢子の元気のない(かかと)が交錯している。向こうから太った男がジョギングしてくる。突き出た腹と汗ばんだシャツを見て夢子は思った。こんな男とも或いは枕を並べなきゃいけないのだろうか。
 男の膨らんだ白い肌は、却って暗然たる闇を嫌が上でも夢子に想起させた。
 夢子のクラスには、こうしたパパ世代の男性に限らずジジほどの年齢の男とも平気で寝ている者もいる。彼女曰く、金離れの良さそうなパパやジジを選んでじらせば、1枚でも多く諭吉(・・)か新札の栄一(・・)がぶんどれるという。放課後、制服を脱いで目をつむっていれば勝手に財布が膨らんでくるのだという。
 本当だろうかと夢子は思う。思うがその手っ取り早い金稼ぎに自分が足を踏み入れるイメージがまだできない。
 敢えて想像してみた。制服を脱いだ自分の体に吸着するさっきの白い肌の男、陰部の奥までねぶられている想像は吐き気を催しそうだった。

 つまり夢子は迷っている。それは大学進学への迷いではなく、この方法しかないのかといった諦観(ていかん)醒めやらぬ迷いである。
「あほんだらああゝ!」
 河川敷から眺めるとオレンジの特急車両が夕陽に溶けて橋梁(きょうりょう)をすべっていく。オレンジ車両は彼女の叫びなど()()みじんにして河の上を何もなかったように通り過ぎていく。
 便利な言葉を使えば、複雑な思い(不安、期待、恐怖など)があるにせよ、夢子は買い手がある自分(・・・・・・・・)を担保に、大学を買う(・・・・・)しかなかった。
 喧嘩した父とは、あれ以来口もきいていない。勇作も夢子に何も言わなかった。
 言えば、「おとんはどうにかしてくれるのか」と返されるだろうし、大学なんか行くな、とやればまた親子喧嘩になることを父もわかっていたからである。
 勇作が一番見たくなかったのは、娘の窮余の金策(パパ活)が事実化され、彼に突きつけられることだった。これがため彼は口を開けなかった。
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