第40話 虹色に輝く羽

文字数 3,961文字

シャイニーは、その日から琴を護り始めた。
琴は相変わらず塞ぎ込み、いつも俯いていた。
学校でもずっと俯いたままで、友達が遊びに誘っても首を左右に振るだけだった。

(琴ちゃん…前はあんなに笑っていたのに…)

シャイニーは、どうしたら琴が以前のような笑顔を見せるのか考えたが、全く思い付かなかった。

「フルル…どうしたら琴ちゃんは、笑ってくれるのかな…」

シャイニーの問い掛けに、フルルは髪の中から飛び出し考える素振りを見せたが、やはり思い付かないようで体を左右に振って見せた。

「フルルも分からないか…」

溜め息を吐きながら、ふと右手を見ると、ラフィから渡された指輪がキラリと光った。

「そうだ!ラフィ先生に相談してみよう。」

シャイニーは、指輪を口元に寄せ話しかけた。

「ラフィ先生、聞こえますか?シャイニーです。」

すると、すぐさま指輪からラフィの声が聞こえてきた。

「やぁ!シャイニー。何かあったのかい?」
「はい。実は…」

シャイニーは、琴が事故で両親を亡くし、ずっと塞ぎ込んでいる事や、琴を護り笑顔を取り戻したいと思ってはいるが、どうしたら良いか分からない事を話した。

「なるほど…シャイニーが琴ちゃんに今一番したい事はなんだい?」
「僕が、琴ちゃんに一番したい事…」

シャイニーは少し考えていたが、琴が両親との写真を見ながら言っていた事を思い出した。

『ママ、パパ…どうして琴を置いていったの?琴も一緒に連れて行って欲しかったよ…琴はひとりぼっち…』

(琴ちゃんは、ひとりぼっちなんかじゃない…)

シャイニーは、グッと拳を握り締めながら言った。

「琴ちゃんを安心させてあげたいです。それから、決してひとりぼっちじゃない事を伝えたい…」
「うん。それなら、その事を琴ちゃんに伝えてごらん。」
「え…琴ちゃんには、僕の姿は見えないし声も聞こえないんじゃ…」
「そうだね。人間には、僕達の姿は見えないし声も聞こえない。でも、ちゃんと僕達天使が存在している事をメッセージとして伝える方法はあるんだ。」
「それは、どんな方法なんですか?」
「シャイニー、その方法は自分で考えるんだ。君なら分かるはずだよ。」
「そっか…僕自身で考えないといけないんですね。」
「それも修業の一つだからね。自分で考えて行動する…それが大切だし、大きな学びになるんだ。」
「ラフィ先生、分かりました。ちょっと考えてみますね。」

シャイニーは話し終えると、どうすればメッセージを伝えられるかを考えた。

「う〜ん…どうすればいいのかな…琴ちゃんにメッセージを伝えるには……あ!そうだ!」

シャイニーは、ある方法を思い付き顔をパッと輝かせた。

「うん!まずは、この方法を試してみよう!」

シャイニーは、琴の笑顔を頭に浮かべ頷くのだった。




夜になり、シャイニーは琴が眠るベッドの枕元に立っていた。

「琴ちゃん、良く寝てる。」

シャイニーは、琴の頭を優しく撫でると額に手をかざした。
すると、琴の額から白い雲のようなモヤが現れ、少しずつ大きくなっていった。

「琴ちゃんは、どんな夢を見てるのかな?」

シャイニーがモヤを覗くと、琴が膝を抱えてうずくまっているのが見えた。

「琴ちゃん…」

琴の姿を見た瞬間、胸に痛みが走りシャイニーは思わず胸を押さえた。
そして、白いモヤの中に入ると、琴の近くに寄り声を掛けた。

「琴ちゃん。」

琴は、膝にピッタリと付けていた顔を上げ、シャイニーを見た。

「あなたは誰?」
「僕は天使のシャイニー。そして、この子が…」

シャイニーが頭に手を近づけた時、髪の中から勢いよくフルルが飛び出してきた。

「待ちきれなくて飛び出してきたこの子はフルル。音符なんだよ。」

フルルは、宙に浮きユラユラと揺れている。

「え?天使と音符?」
「うん。僕達は琴ちゃんが寂しそうだったから来たんだよ。」
「そうなんだ…でも、天使って本当にいるの?」
「うん。いるよ。だから、こうやって琴ちゃんに会いに来てるんだ。」
「そのフワフワ飛んでいる音符?は生きてるの?」
「うん。フルルは、ハープが奏でる音色から生まれたんだよ。」

フルルは、様子を伺うように琴の目の前に行くと、ペコリとお辞儀をした。

「フフッ…可愛い。フルルよろしくね。」

琴がソッと手の平を広げると、フルルは恐る恐る手の平に乗った。

「怖がらなくても大丈夫よ。フルル。」

琴が優しく撫でると、フルルは嬉しそうに琴の手にじゃれついた。

「じゃれてる…なんだか猫みたい。」

琴は笑顔でフルルを撫で続けている。

(琴ちゃんが笑ってる!)

シャイニーは、琴の笑顔を見て胸が温かくなっていった。

(やっぱり、琴ちゃんの笑顔は可愛いな〜)

シャイニーは、嬉しくなり笑顔で琴を見つめた。

「シャイニー君は、どこから来たの?」

琴はフルルを手でじゃれつかせながら、シャイニーを見た。

「シャイニーで良いよ。僕は、天使の国から来たんだ。まだ学びの最中で、ここへは修業で来たんだよ。」

「学び?修業?」
 
琴は意味が分からず首を傾げた。

「え〜と…学びは、琴ちゃんが通っている学校みたいな感じだよ、」
「へ〜天使も学校に行くんだ〜」
「琴ちゃんが通っている学校とは、ちょっと雰囲気は違うけどね。それで、僕の修業は琴ちゃんを護る事なんだよ。」
「え!シャイニーが琴を護ってくれるの?」
「うん。そうだよ。」

シャイニーが笑顔で答えると、琴は嬉しそうにニコッと笑った。

「ありがとう。シャイニー。」

(琴ちゃんをもっと笑顔にしてあげたいな…あ!そうだ!)

シャイニーは、羽を1枚抜くと琴に渡した。

「これは僕の羽だよ。光にかざすと虹色に輝くんだ。」

琴は受け取った羽を光にかざすと、キラキラと虹色に輝いた。

「わ〜!凄く綺麗…ありがとう。大切にするね。」

琴は羽をギュッと抱き締めた。

「琴ちゃん、例え僕の姿が見えなくても…声が聞こえなくても、ちゃんと側にいるからね。」
「うん。分かった。シャイニー、ありがとう。」

シャイニーとフルルがスッと姿を消すと、琴はもう一度大切そうに羽を抱き締めるのだった。



「う〜ん…」

琴はカーテンの隙間から差し込む朝日の眩しさで、目を覚ました。

(あれ?シャイニーとフルルはどこ?)

琴はキョロキョロとシャイニーの姿を探したが、どこにも見当たらなかった。

(なんだ…夢か…そうだよね。天使なんているわけないし…)

ガッカリしながらふと手を見ると、1枚の羽がシッカリと握り締められていた。

「え!羽?」

慌ててベッドから出ると、カーテンを開け羽を光にかざしてみた。
すると、羽は虹色にキラキラと輝いたのだった。

「シャイニー…本当に琴を護ってくれてるんだ…」

琴は嬉しくなり、何度も羽を光にかざした。
かざす度に羽は虹色にキラキラと輝き、その美しさに暫く見惚れていた。

「そうだ!じぃじとばぁばにも見せてあげなきゃ!」



1階のリビングでは、祖父が新聞を読み、祖母はテーブルに朝食を並べていた。

「じぃじ!ばぁば!」

琴が2人を呼びながら、ドタドタと階段を下りてくる音が聞こえてきた。
祖父母は、何事かと驚きながら階段の方に目を向けると、パジャマ姿の琴が駆け込んできた。

「琴ちゃん、朝から一体どうしたの?」
「ばぁば!琴、天使から羽を貰ったの!ほら見て。」

琴は、シッカリと握り締めた羽を祖母の前にグイッと突き出した。

「え…羽?天使?」

祖母は訳が分からず琴と羽を交互に見た。

「それで、こうやって羽を光にかざすと…虹色にキラキラ輝くの!」
「あら…本当…綺麗な羽ね〜こんな羽は見た事がないわ。どこで拾ったの?」

祖母は、虹色に輝く羽を不思議そうに見ながら琴に聞いた。

「あのね、天使の夢を見たの。名前はシャイニーって言うの。そのシャイニーが羽をくれたの!」

琴の頬は喜びでピンク色に染まっている。

「夢の中で?その…シャイニーとかいう天使が羽をくれたの?」

琴はウンウンと頷いた。

「琴ちゃん、大丈夫?熱でもあるんじゃない?」

祖母は心配そうに、琴の額に手を当てた。

「熱なんてないよ。じぃじも見て!はい!」

琴はクルリと向きを変えると、新聞を広げたままボカンと口を開けている祖父に羽を突き出した。

「あ、ああ…確かに羽だね〜」
「もう!じぃじったら、ちゃんと見て!ほら!」

琴が羽を握らせると、祖父は光にかざしてみた。
すると、羽は虹色にキラキラと輝きだした。

「いや〜これはまた…随分と綺麗な羽だな〜」
「そうでしょ〜琴の宝物にするんだ。」
「でも…琴ちゃん、天使なんていないでしょ…」

祖母はオロオロしながら、琴の体をペタペタと触っている。

「体調が悪いんじゃないの?それともどこか痛い所でもあるんじゃない?」
「もう!琴は元気だって。」

シャイニーは、3人の側でこのやり取りを見ていた。

「やっぱり、天使はいないと思われてるんだ…どうしたら信じてくれるかな…」

シャイニーは少し考えると天井まで舞い上がり、羽を1枚抜くとテーブルに落ちるように手を離した。

「あ!見て!」

琴が天井を指差すと、羽がヒラヒラと舞いながら、3人が囲むテーブルに落ちた。
琴がすぐさま羽を取り、光にかざすと虹色に輝いた。

「やっぱり、シャイニーの羽だ!」

祖父母は顔を見合わせ、琴の手の中で輝く羽を見た。

「あら…まぁ…不思議な事があるものね…」
「まぁ…琴ちゃんが喜んでいるから良いんじゃないか…」
「そうね…あ!もうこんな時間。琴ちゃん、着替えてきなさい。学校に遅れるわよ。」
「は〜い。」

琴は2枚の羽を嬉しそうに眺めながら、2階に上がっていった。

「じぃじ…琴ちゃんの笑顔、久し振りに見たわ…でも天使なんて言って…心配だわ。」
「う〜ん…天使ねぇ。そもそも天使なんて聖書や物語の中だけのものだよな。」

シャイニーは、2人のやり取りをジッと見ていた。

「なかなか天使の事を理解してもらうのは難しいな…どうしたら理解してもらえるのかな…」

シャイニーは、ソッと溜め息を吐いたのだった。






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登場人物紹介

シャイニー


特別な力を持った天使で、髪と翼は光が当たると虹色に輝く。

寂しがり屋で引っ込み思案だが、様々な経験を通して成長していく。


フレーム


シャイニーの親友。

自分の力を過信する時があるが、優しい天使。

心の中の炎をコントロールができず苦悩する。


ハーニー


シャイニーの名付け親でありハープ奏者。

いつも、シャイニーとフレームを気にかけている。

優しく温かい天使。

ラフィ


子供の天使達の教師であり、世話係。

明朗で優しく、癒しの天使でもある。

サビィをからかう事がよくある。

明るい表情の裏で深い悲しみを抱えている。

サビィ


天使の国をまとめている天使長。

美しい天使で、誰もが彼を見ると目が離せなくなる。

果樹マレンジュリをこよなく愛し、この果樹を利用した紅茶やお菓子などを開発する事に喜びを感じている。

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