第5話 約束

文字数 1,975文字

「ふう…」

ハーニーは、天使長室の前で深呼吸をした。

「サビィ様は、なぜ私をお呼びになったのかしら…」

ハーニーは、なかなか扉をノックする勇気がなく、かれこれ10分ほど扉をジッと見つめている。
8枚の翼が描かれている大きな扉を前にすると、緊張しどうしてもノックができない。

「もう、こうしていても仕方ないわ!」

意を決してノックをしようと腕を上げた瞬間、扉の向こう側から、穏やかで澄んだ声が聞こえてきた。

「ハーニーだね。入りなさい。」
「は、はい…失礼致します。」

ハーニーは早鐘を打つ胸を押さえながら、扉を押し開け中に入った。
深く一礼し、顔を上げると穏やかな笑顔のサビィの姿が目に入った。

「ハーニー、突然呼び出してすまない。」

(なんて美しいの…〕

ハーニーは、サビィの美しさに目を奪われ言葉を失った。
今までは遠くからしかサビィを見た事がなかった。
しかし、それでも彼の美しさは眩いばかりの光を放っていた。
改めて、サビィを目の当たりにしあまりの美しさに息をのんだ。
足首まである長い髪は銀色に輝き、サビィが動くたひにサラサラとなびく。
肌は雪のように白く、瞳は知的さをはらみながらも憂いを纏った美しい青。
翼は左右合わせ8枚。
翼の多さは天使の力の強さを表し、8枚の翼は天使の中でも最大の力を持つ証である。
そして、身に纏う真っ白なローブが更に美しさを引き立たせている。

(きっと、天使の中でもサビィ様が一番美しいわ…)

ハーニーは、サビィに見惚れたままぼんやりと考えていた。

「ハーニー…ハーニー?ボーッとしているが大丈夫か?」

ハーニーは、サビィの問い掛けにハッと我に返った。

「申し訳ありません。大丈夫です!」

慌てて答えたせいで、ハーニーの声は思ったよりも大声になっていた。
その大声に一瞬目を丸くしたサビィは、クスクス笑った。

「元気そうで何よりだ。」

(もう!やだ…恥ずかしいわ)

ハーニーは顔を真っ赤にし俯いてしまった。
サビィは暫くクスクスと笑っていたが、呼吸を整えると真剣な顔でハーニーを見つめた。

「ハーニー、顔をお上げ。実はシャイニーの事で話しがある。」
「シャイニーの事ですか…?」

ハーニーは弾かれたように顔を上げた。

「そうだ。シャイニーは君も知っているとは思うが、特別な子だ。卵の頃から他の天使達とは違っていた。そして、それだけではない。実は、シャイニーには大きな使命があるのだ。」
「シャイニーが特別な子だという事は知っていましたが…大きな使命があるなんて…あの子の使命は一体どういったものなのですか?」

ハーニーの頭にはシャイニーの可愛い笑顔が浮かんでいた。

「すまないが、あの子の使命については話せない…私も、詳しくは分からないのだ…ただ、その使命はとても大きいと感じている。いずれ、彼自身が自分の使命に気付くだろう。その大きな使命故、あの子の学びもとても大きく辛いものとなる。学びの大きさに嘆き悲しむ事があるかも知れない。苦しみが胸いっぱいに広がる事もあるだろう。そのような時は、君がシャイニーの支えになって欲しい。シャイニーは、君を慕い甘えるだろう。あの子を温かく受け止めてあげて欲しいのだ。」

ハーニーはサビィの話しを聞きながら、シャイニーの笑顔や抱き締めた感触…そして、安心して眠る姿を思い出し胸がいっぱいになっていた。
このまま離れてしまうのは、とても寂しいと思っていたのだ。
これからもシャイニーの成長を見守る事ができると思うと嬉しい。
しかし、今後シャイニーが嘆き悲しむような出来事が起こると知ると、胸が締め付けられるように痛んだ。

(何が起こっても、私がシャイニーを守り支えになろう…)

ハーニーが固く決心すると、更にサビィが言葉を続けた。

「そして一つだけ約束して欲しい事がある。先程ライルにも全天使に伝えるよう頼んだのだが…シャイニーを特別扱いしないようにしてもらいたい。彼本人や他の子達にも特別だと気付かれないように…」
「サビィ様、ご安心下さい。シャイニーとは上手く接しながら支えとなり見守っていく事をお誓いします。」

ハーニーは力強く、そして自分自身に言い聞かせるように言った。

「感謝するハーニー。」

サビィが安堵し艶やかに微笑むと、その美しさにハーニーはうっすらと頰を染めるのであった。



「ハーニー、ハーニーはどこ?」

その時、先程サビィが見ていた水盤から心細そうな声が聞こえてきた。

「どうやら、シャイニーが目覚め君を探しているようだ。私からの話しは以上だ。行っておやりなさい。」
「はい、サビィ様。失礼致します。」

ハーニーは深く一礼をし、天使長室を後にした。
















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登場人物紹介

シャイニー


特別な力を持った天使で、髪と翼は光が当たると虹色に輝く。

寂しがり屋で引っ込み思案だが、様々な経験を通して成長していく。


フレーム


シャイニーの親友。

自分の力を過信する時があるが、優しい天使。

心の中の炎をコントロールができず苦悩する。


ハーニー


シャイニーの名付け親でありハープ奏者。

いつも、シャイニーとフレームを気にかけている。

優しく温かい天使。

ラフィ


子供の天使達の教師であり、世話係。

明朗で優しく、癒しの天使でもある。

サビィをからかう事がよくある。

明るい表情の裏で深い悲しみを抱えている。

サビィ


天使の国をまとめている天使長。

美しい天使で、誰もが彼を見ると目が離せなくなる。

果樹マレンジュリをこよなく愛し、この果樹を利用した紅茶やお菓子などを開発する事に喜びを感じている。

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