第32話 地球に続く扉

文字数 4,923文字

「う〜ん!」

シャイニーは、ベッドから起き上がると大きく伸びをした。

「昨夜はあの夢を見たせいか、何だか寝た気がしないや…」

目を擦りながらボーッとしていると、隣の部屋からフレームの声が聞こえてきた。

「シャイニー、起きてるか?入るぞ。」

フレームは部屋に入るなり、シャイニーの顔を見て笑い出した。

「ハハハ!何だよその顔。半分寝てるみたいだぞ。」
「昨夜、あんまり寝た気がしなくて寝不足なんだ…」

シャイニーは大あくびをしながら答えた。

「俺はクルックのおかげで良く寝られたぞ。」
「ん?クルックのおかげ?」
「実は、昨夜は俺も寝付けなかったんだ。そうしたらクルックが添い寝して子守唄を歌ってくれたんだ。」

フレームは、頭に響いた声については話さなかった。。

(シャイニーにあの声の事は話せない…話したらどう思われるか…)

昨夜の声を思い出し、フレームはブルッと体を震わせ思わず俯いた。

「へぇ〜クルックがそんな事を…クルックと随分仲良くなったんだね。」

顔を上げると、驚きで目を丸くしているシャイニーの顔が目に入った。

(フッ…シャイニー間抜けな顔してる。)

フレームは、シャイニーの顔を見てホッとしている自分に気付いた。

「まぁな。俺自身ビックリなんだけどな。さてと…朝食を食べに行こうぜ。ご飯食べたら目も覚めるって。おい、フルル飛び回ってないでシャイニーの髪に潜れ。ほら、行くぞ。」

(やっぱりシャイニーは、俺の大切な友達だ。)

フレームは温かくなっていく心を感じながら、シャイニーの背中をグイグイ押し部屋を出たのであった。


「フレーム、ご飯食べたら余計に眠くなったよ。」

2人は朝食後、慧眼(けいがん)の部屋に来ていた。

「ハハハ。腹一杯食べてたもんな。」
「うん。ファンクさんの料理は美味しいから、ついつい食べ過ぎちゃうんだよね」
「うんうん。今朝のオムレツはフワフワで格別だったな〜」
「あら、私はデザートのマレンジュリゼリーも格別だと思ったわよ。」

シャイニーとフレームの間に、マトラが無理やり入り込んできた。

「イッテ〜!マトラ!無理やり入ってくるなよ。」
「フン!これ位で痛いなんて軟弱ね!」
「俺はデリケートなんだよ。」
「へぇ〜良く言うわ!」
「なんだと!」
「2人共、ケンカしちゃ駄目だよ!」

シャイニーは、フレームとマトラの間に入った。

「マトラ、そう言えば今朝は食堂で会わなかったよね?」
「シャイニー、そうなのよ!ストラが寝坊して遅くなっちゃったの。私は先にここに来たけど、ストラはまだ食べてるわ。」

マトラは、フレームとケンカをしていた事をすっかり忘れているようだった。

「ハーッ…マトラ、コロコロ変わり過ぎ…」

フレームは、そんなマトラを見てガックリと肩を落としている。

「マトラ!ズルいよ。僕のせいだけじゃないよ。マトラだって、なかなか髪型が決まらないって用意に時間掛けてたじゃないか!」

いつの間にかやって来たストラが、ムッとしたように言い返した。

「私の場合は身だしなみよ。レディは用意に時間が掛かるものなのよ。」
「はぁ?何がレディだよ。笑っちゃうね。」
「ストラ!何よ。失礼ね!」

マトラが怒りで顔を真っ赤にしていると、見兼ねたラフィが2人の間に入った。

「はい!ストップ。キリがないからね。」

ラフィはクスクス笑っている。

「ラフィ先生!いつからそこに…?」
「そうだな〜マトラがレディは用意に時間が掛かるものなのよ…と言ってた辺りからかな。」
「え!嫌だ!恥ずかしい…」

マトラは顔を真っ赤にさせて俯いた。
ラフィは、笑顔でマトラの頭を優しく撫でると子供達全員を見渡した。

「それじゃ、みんな席に着いてね。」

ラフィは、背を向け教壇の方へと歩いて行ったが、その肩は小刻みに揺れている。

「おい、シャイニー。ラフィ先生、明らかに笑ってるよな。」
「うん。あれは笑ってるね。」

2人がソッと見ると、マトラは何かブツブツと呟きながら席に着くところだった。
シャイニーとフレームは肩をすくめると席に着いた。

「今日は学びというより、みんなで遊んでみようと思っているんだ。かくれんぼをしよう。」

教壇に立ち振り返ったラフィは、もう笑っておらずいつもの穏やかな笑顔だった。

「かくれんぼ…?」
「それは、どんな遊びなんですか?」

子供達は、首を傾げながらラフィに質問した。

「僕が数を数えている間に、みんなは隠れるんだ。数え終わったら僕が探しに行くからね。最後まで見つからなかった子が勝ちだよ。隠れる場所はブランカ城の中だったら、どこでも大丈夫だし、自分で隠れ場所を作ってもOK。あ!自分の部屋に戻るのはダメだからね。僕に見つからずに上手く隠れてごらん。」
「へぇ〜面白そう。」
「ラフィ先生に見つからなければ良いんですよね?」
「そうだよ。僕に見つからなければ良いんだ。それじゃ、早速始めよう!僕は100まで数えるから隠れてね。い〜ち、に〜、さ〜ん…」

ラフィが数を数え始めると、子供達は急いで立ち上がり、慧眼(けいがん)の部屋から、1人、また1人と消えていった。

「シャイニー、俺達も隠れるぞ!」
「うん!フレーム後でね。」
「ストラ、行くわよ。絶対に勝つんだから。」
「マトラ、待ってよ〜」

子供達が姿を消した慧眼(けいがん)の部屋に、数を数えるラフィの声が響いていた。


「え〜と…どこに隠れようかな〜」

シャイニーは、廊下をキョロキョロしながら歩いていた。

「ブランカ城に、隠れる場所なんてあったかな…隠れ場所を作った方が良いかな…」

呟きながら歩いていると、廊下の壁に見覚えのない小さな扉があった。

「え?こんな扉あったっけ?」

木製のその扉は、子供がようやく入れるような大きさだった。
シャイニーは屈み、ドアノブを回してみる。

ーーガチャーー

扉は簡単に開いた。
覗き込んでみたが、真っ暗で何もみえない。

「真っ暗だ。ここ…隠れられるのかな…でも、ちょっと怖いからやめておこうかな。」

扉を閉め立ち上がろうとした時、突然扉が開いた。

ーーパタンーー

「え!扉が開いた!何で?」

驚いて後ずさると、扉の奥の暗闇から透けた白い手が伸びてきてシャイニーを掴んだ。
その手の力は思いのほか強く、引き寄せられそうになる。

「え!引きずり込まれる!」

シャイニーは逃げようとしたが、力が強く逃れる事ができない。
必死に扉を掴んだが、体はすでに暗闇に引き込まれていた。

「凄い力…もう限界だ…」

抵抗も虚しく、シャイニーの手は扉から離れ暗闇へと飲み込まれた。

「ワーーーーッ!」

曲がりくねった暗闇を猛スピードで滑り落ちていく。
それは、まるで急勾配の滑り台のようだった。

ーーードスンーーー

シャイニーは突然どこかに放り出され、お尻を思いっきり打ち付けた。

「イタタタ…ここはどこだろう?」

暗闇の中、キョロキョロしていると少しずつ明るくなっていった。

(ここは…部屋?)

シャイニーは、日が暮れる直前の薄暗い部屋にいた。
その部屋には学習机があり、床には赤いランドセルが転がっている。

「ヒッ、ヒック…ヒック…」

どこからか泣き声が聞こえてくる。
シャイニーが見回すと、部屋の片隅で女の子が膝を抱え泣いていた。

(女の子が泣いている…)

いてもたってもいられず女の子に近寄り声を掛けた。

「どうしたの?大丈夫?」
「ヒック…ヒック…」

女の子は泣き続けている。

「どこか痛いの?何か僕にできる事ない?」
「ヒッ…ヒック…」

シャイニーは女の子の頭を撫でた。

「僕は、頭を撫でてもらうと心が温かくなるんだ。君の心も温かくなると良いな…」
「………」

いくら話し掛けても女の子は、全く答えなかった。

(ひょっとして、僕の声が聞こえてないのかな…?どうしたら、この子は泣き止むのかな…)

シャイニーが困り果てた時、扉をノックする音が聞こえてきた。

ーーートン、トン、トンーーー

「琴ちゃん…ご飯よ。」
「いらない…食べたくない…」
「琴ちゃん…学校の給食も食べてないんでしょ?さっき、先生から電話があって凄く心配してたわよ。」
「いらないの!琴は、ママが作ってくれたご飯が食べたいの!」

琴と呼ばれる女の子は、そう答えると再びワッと大泣きしてしまった。

(どうしよう…僕に何かできる事はないの?)

シャイニーは、目の前で泣き続ける女の子を見つめる事しかできなかった。





「シャイニー、やっと見つけたよ。今までどこに隠れていたんだい?」

ラフィの温かで優しい声に、シャイニーはハッと顔を上げた。

「え!ここはどこ…?泣いていた女の子は?」

シャイニーは、キョロキョロと辺りを見渡しながら呟いた。

「シャイニー?一体どうしたんだい?ようやく見つけたと思ったら、一点を見つめてボーッとしてたよ。」
「ラフィ先生…僕…隠れようと思ったら、この小さな扉に引きずり込まれたんです。」

シャイニーは扉があった壁を指差した。

「ん?扉?どこにあるんだい?」
「この壁の下にありま…す…え!扉がない…確かにあったのに…」
「扉か…シャイニーは、その扉の中に引きずり込まれたんだね。その後、どうなったんだい?」
「真っ暗な中を滑り落ちて、部屋のような所に放り出されました。そこで小さな女の子が泣いていました。」
「それは本当かい?」

ラフィは驚き目を見開いた。

「はい…僕…女の子に話し掛けてみましたが、ずっと泣いてて…」

(驚いたな…まさかシャイニーにも"地球に続く扉"が現れるとは…いや、シャイニーだから現れたのか…)

「ラフィ先生?」

突然、黙り込んだラフィにシャイニーが首を傾げながら声を掛けた。

「ああ…ごめん…ちょっと考え事をしててね。シャイニー、その扉は"地球に続く扉"だよ。」
「地球に続く扉…?」
「うん。シャイニーが出会った女の子は、ずっと泣いていたんだね?」
「はい…僕が声を掛けても、まるで聞こえてないようでした。悲しそうにずっと泣いてて…」
「そうだよ。その女の子には、君の声は届いていないんだ。」
「え!やっぱり僕の声は聞こえてなかったんですね。」
「そうなんだ。その女の子は地球に住む女の子。残念ながら、人間には僕達天使の声は聞こえない。」
「そうなんですね…僕は、琴ちゃんに何もしてあげられないんだ…」

シャイニーは、琴と呼ばれた女の子を思い出していた。

(まだ、小さい女の子なのに…あんなに悲しんで…)

膝を抱えて泣く琴を思うと、胸の奥がギュッと痛くなった。

「その女の子は、琴ちゃんというんだね。」
「はい。膝を抱えて泣いていました。誰かが食事に誘っていました。でも、食べたくない…ママの作ったご飯が食べたいって…泣き続けてて…」

シャイニーは言葉にすればするほど、胸が痛くなり思わず痛む胸に手を当て俯いた。

「そうか…だいたいの状況は分かったよ。シャイニー、君はその子を見て、どう思ったんだい?」
「僕は…琴ちゃんの為に何かできる事はないかって考えました。全然思い付かなかったけど…」
「うん。シャイニーは優しい良い子だね。例え、君の言葉が届かなくても、琴ちゃんにできる事はあるんじゃないかな?」
「僕にもできる事があるんですか?」
「うん。できるから"地球に続く扉"が現れたんだよ。今は分からないかもしれないけど、後できっと君は理解する。」

ラフィは、優しく微笑んでシャイニーを見た。

「さぁ、みんなが待っているから、慧眼(けいがん)の部屋に帰ろう。」
「え!もう、みんな見つかったんですか?」
「うん。君以外は、あっという間に見つけたよ。そもそもブランカ城には、あまり隠れる場所はないからね。」

ラフィは楽しそうにニコニコしている。

「でもね。たまに、君みたいになかなか見つけられない子もいるんだ。慧眼(けいがん)の部屋に帰ったら、みんなから質問攻めにされると思うから覚悟してね。」
「え!質問攻めにされるんですか?」
「うん。みんな、シャイニーがどこに隠れたか興味深々だったからね。」

ラフィはクスクス笑いながら言った。

「え!大丈夫かな…」
「まぁ…適当な所で助けてあげるから。」
「適当な所…最初から助けてくれないんですか?」

シャイニーが心配そうにラフィの顔を見ている。

「うん。頑張って!」
「え〜そんな〜」
「アハハハハ」

(ブランカ…"地球に続く扉"が開いた…君以来、初めての事だ…今、君がここいたらシャイニーに何を語るのだろうか…)

ラフィは、朗らかに笑いながらも心の中でブランカに話し掛けるのだった。








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登場人物紹介

シャイニー


特別な力を持った天使で、髪と翼は光が当たると虹色に輝く。

寂しがり屋で引っ込み思案だが、様々な経験を通して成長していく。


フレーム


シャイニーの親友。

自分の力を過信する時があるが、優しい天使。

心の中の炎をコントロールができず苦悩する。


ハーニー


シャイニーの名付け親でありハープ奏者。

いつも、シャイニーとフレームを気にかけている。

優しく温かい天使。

ラフィ


子供の天使達の教師であり、世話係。

明朗で優しく、癒しの天使でもある。

サビィをからかう事がよくある。

明るい表情の裏で深い悲しみを抱えている。

サビィ


天使の国をまとめている天使長。

美しい天使で、誰もが彼を見ると目が離せなくなる。

果樹マレンジュリをこよなく愛し、この果樹を利用した紅茶やお菓子などを開発する事に喜びを感じている。

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