11:ドラゴン(4)
文字数 1,344文字
「ファルサー!」
アークの声に、ハッとなる。
奇妙な現象に気を取られて、ドラゴンを不用意に近付けてしまった。
左右のどちらに避ける事も出来ずに後退り、岩壁が背に当たる。
迫るドラゴンは、怒りの隻眼でファルサーを睨みつけてくる。
大きく開いたドラゴンの口を、咄嗟に両手で押さえ、取り落としたグラディウスが地面に当たる硬い音が響く。
後ろの壁で左足をしっかりと踏ん張り、両手に渾身の力を込めて右足を踏み出した。
ドラゴンがファルサーの力に押し負けて、ズルズルと後ろに下がっていく。
それもまた、あり得ない事だった。
自分の身になにが起きているのか、全く解らない。
身体を捻って、四足動物を転ばせる。
追い込まれた壁際から、走り出る。
慌てて走り出てしまって、グラディウスを拾い損ねたのが手痛い。
ドラゴンは予想よりも早く身を起こし、構えて口を開くと、ブレスを吐き付けてくる。
それを何度か躱し、ファルサーはなんとか回りこんで、グラディウスを取り戻そうと考えた。
攻撃的に前に出てくるかと思えば、何かを恐れているのか、後ろに下がる。
ドラゴンの行動は、最初に怒りで襲いかかってきたものとは、少し違っていた。
ようやくグラディウスを掴んだ時、ファルサーはドラゴンが恐れて下がったのでは無い事に気付く。
ブレスによって熔解した岩が、言葉通り溶岩の川を形成していた。
アークが言っていた「言語は解 さないが、知能は高い」という言葉が、脳裏を過る。
尾っぽを地面に叩きつけ、勢いを付けてドラゴンは前脚を跳ね上げた。
その二足で立ち上がったような格好から、一気に身体を打ち下ろす。
おおぶりな攻撃なので命中率は低いが、破壊力は想像を絶する。
打ち下ろされた瞬間の衝撃は、咄嗟に動く事もままならぬ程に地面が振動する。
その一瞬の隙に、ドラゴンは素早く身を翻し、振り回した尾でファルサーの横っ腹を打った。
息も出来ない程の衝撃のあとに、身体が空に飛ばされる浮遊感。
肩から地面に落ちたが、落とされた先は溶岩の川だった。
落ちる直前、さすがにこれで一巻の終わりかと思ったが、想像と違って熱した泥に突き落とされたような、少しの息苦しさを感じただけだった。
どうやらアークの術 が、またしても身を守ってくれたらしい。
むしろ、硬い地面に叩きつけられるよりも状況は有利で、体に感じた温度はかなり高かったが火傷もしていなかった。
しかしそこで、なまじ安心したのが命取りになった。
「ファルサー!」
再び聞こえたアークの声に、ファルサーが顔を上げた時。
目の前にあったのは、ドラゴンの腹だった。
大振りの一撃が、頭上にある。
三本の鉤爪が、目一杯開かれているのが、不思議なほどハッキリと見て取れた。
思考は真っ白になり、もう逃げる事も反撃する事も出来ずに立ち竦む。
すると先程、ドラゴンの尾に打ちのめされたファルサーの横っ腹を、再び何か強烈な一撃が打ち据えた。
だがその一撃にはドラゴンの尾ほどの破壊力は無く、ただファルサーをその場から数歩動かしただけだった。
その数歩で、ファルサーはドラゴンの強烈な一撃を避ける事が出来た。
しかしファルサーをよろめかせた衝撃の主 に気付いた瞬間、ファルサーは言葉にならない声で絶叫していた。
アークの声に、ハッとなる。
奇妙な現象に気を取られて、ドラゴンを不用意に近付けてしまった。
左右のどちらに避ける事も出来ずに後退り、岩壁が背に当たる。
迫るドラゴンは、怒りの隻眼でファルサーを睨みつけてくる。
大きく開いたドラゴンの口を、咄嗟に両手で押さえ、取り落としたグラディウスが地面に当たる硬い音が響く。
後ろの壁で左足をしっかりと踏ん張り、両手に渾身の力を込めて右足を踏み出した。
ドラゴンがファルサーの力に押し負けて、ズルズルと後ろに下がっていく。
それもまた、あり得ない事だった。
自分の身になにが起きているのか、全く解らない。
身体を捻って、四足動物を転ばせる。
追い込まれた壁際から、走り出る。
慌てて走り出てしまって、グラディウスを拾い損ねたのが手痛い。
ドラゴンは予想よりも早く身を起こし、構えて口を開くと、ブレスを吐き付けてくる。
それを何度か躱し、ファルサーはなんとか回りこんで、グラディウスを取り戻そうと考えた。
攻撃的に前に出てくるかと思えば、何かを恐れているのか、後ろに下がる。
ドラゴンの行動は、最初に怒りで襲いかかってきたものとは、少し違っていた。
ようやくグラディウスを掴んだ時、ファルサーはドラゴンが恐れて下がったのでは無い事に気付く。
ブレスによって熔解した岩が、言葉通り溶岩の川を形成していた。
アークが言っていた「言語は
尾っぽを地面に叩きつけ、勢いを付けてドラゴンは前脚を跳ね上げた。
その二足で立ち上がったような格好から、一気に身体を打ち下ろす。
おおぶりな攻撃なので命中率は低いが、破壊力は想像を絶する。
打ち下ろされた瞬間の衝撃は、咄嗟に動く事もままならぬ程に地面が振動する。
その一瞬の隙に、ドラゴンは素早く身を翻し、振り回した尾でファルサーの横っ腹を打った。
息も出来ない程の衝撃のあとに、身体が空に飛ばされる浮遊感。
肩から地面に落ちたが、落とされた先は溶岩の川だった。
落ちる直前、さすがにこれで一巻の終わりかと思ったが、想像と違って熱した泥に突き落とされたような、少しの息苦しさを感じただけだった。
どうやらアークの
むしろ、硬い地面に叩きつけられるよりも状況は有利で、体に感じた温度はかなり高かったが火傷もしていなかった。
しかしそこで、なまじ安心したのが命取りになった。
「ファルサー!」
再び聞こえたアークの声に、ファルサーが顔を上げた時。
目の前にあったのは、ドラゴンの腹だった。
大振りの一撃が、頭上にある。
三本の鉤爪が、目一杯開かれているのが、不思議なほどハッキリと見て取れた。
思考は真っ白になり、もう逃げる事も反撃する事も出来ずに立ち竦む。
すると先程、ドラゴンの尾に打ちのめされたファルサーの横っ腹を、再び何か強烈な一撃が打ち据えた。
だがその一撃にはドラゴンの尾ほどの破壊力は無く、ただファルサーをその場から数歩動かしただけだった。
その数歩で、ファルサーはドラゴンの強烈な一撃を避ける事が出来た。
しかしファルサーをよろめかせた衝撃の